染色体の進化

染色体の本数は種によって違っていて、進化の過程で、融合したり、分裂したりしてきたと考えられる。現在、いくつかの種では、染色体単位でゲノム配列が決定されているので、異種間の染色体を比較して、染色体が、どう変化してきたのか、見てみようと思った…

人類の起源

ふと、ヒトと類人猿のゲノムを比較したことがないので、やってみようと思った。単にアラインメントするだけでは詰まらないので、人類と、チンパンジー、ボノボの分岐時期の推定に役立ちそうな指標を集計することにする。チンパンジーとボノボの分岐は、人類…

近軸光学の群論的構造

近軸光学は、ガウス光学と呼ばれることもあるようだけど、ガウスの名前を冠するのが適切かどうか調べてないので、以下では、近軸光学と呼ぶ。近軸光学は、19世紀から知られてたようだけど、どういうわけか、symplectic群が出てくる。19世紀には、まだsymplec…

統計学の変容過程

英語のstatisticsは、ドイツ語のStatistikの訳とされていて、Statistikは、Gottfried Achenwallという人の1749年の著書で初めて使われたとされている。Statistikは、当初、国家の状態を定性的に考察する分野だったようだ。19世紀には、statisticsに数量的な…

少数電子系の高精度計算(1)

最近、"精密計算化学"みたいな分野が存在してほしい気持ちが、私の中で高まってきた(精密化学という名前は、fine chemistryの訳語に既に使われてる)。電子数が1〜4の原子や分子では、Hylleraasが始めて、James & Coolidgeらに拡張された変分計算が(Born-Oppe…

3次元固有値問題の基本解近似法

基本解近似法(a.k.a 代用電荷法)を使ってる文献を見ると、二次元の問題にしか適用されてない。考案されたのが1960年代で、まだ計算機の能力的に2次元問題が中心だったのかもしれないけど、3次元以上でも使えるのか、気になった。基本解近似法によるクラドニ…

竹中曉という(無名の)数学者のこと

表現論と信号処理 https://m-a-o.hatenablog.com/entry/2019/04/01/221232で、「Laguerre関数のFourier変換は、Wiener rational functionと呼ばれることがある」(正確には、Fourier変換の積分区間は実数全体だけど、Laguerre関数の定義域は非負実数全体なの…

古代の立方根計算

ヘレニズム時代の地中海・オリエント地域 古代ローマ時代のオリエント地域 古代中国 古代インド Appendix:9世紀の"ケプラー方程式" 平方根の計算については、"ニュートン法"と等価なアルゴリズムがBabylonian methodという名前で呼ばれることもある(ニュート…

常微分方程式のLie symmetryと宇宙の作者の気持ち

たまたま、以下の論文を読んだところ、2階の常微分方程式y''=0のLie symmetryというものが、sl(3,R)をなすと書いてあった。Symmetries, integrals and solutions of ordinary differential equations of maximal symmetry https://doi.org/10.1007/s12044-01…

確率微分方程式のカオス展開による近似解法

適当な参考文献。The asymptotic error of chaos expansion approximations for stochastic differential equations https://arxiv.org/abs/1906.01209Dynamical Polynomial Chaos Expansions and Long Time Evolution of Differential Equations with Rando…

続・組合わせ範疇文法の漸進的構文解析

組合せ範疇文法の漸進的構文解析 https://m-a-o.hatenablog.com/entry/2021/05/05/085810 の補足。 type raisingとGeach ruleを拡張して A|B => (X/(X\A))|B A|B => (X\(X/A))|B (A/B)|C => ( (A/T)/(B/T) )|C (A\B)|C => ( (A\T)\(B\T) )|C のような規則を…

Daniel Bernoulliの発想を継承した二項分布の正規近似の導出

Daniel Bernoulliの正規曲線の方程式の導出法 https://doi.org/10.34336/jhsj.25.158_89に、Daniel Bernoulliが1770年頃に発表したらしい、二項分布の正規近似の導出法が書かれてて、ちょっと面白い議論だった。 二項分布の正規近似は、de Moivreの1733年の…

パンがなければ合成すればいいじゃない

農業で扶養できる人口の見積もり 食糧合成で扶養できる人口の見積もり 食糧合成小史 19世紀〜20世紀前半 20世紀後半 エネルギー源と炭素源 エネルギー源 炭素固定 窒素固定考 高分子の合成 味の作り方 アミノ酸の味 with 食レポ アミノ酸単体の味 ズワイガニ…

信頼区間のオーバーラップで比率の差の検定をするのは、どれくらい悪いのか

ダメな統計学 https://id.fnshr.info/2014/12/28/stats-done-wrong-ja-pdf/ という本の第6章に、二群間の平均値や比率の差の検定をする代わりに信頼区間が重なってるかどうかで、差があるかどうかを判断している論文が存在すると書いてある。平均値や比率の…

基本解近似法によるクラドニ図形の計算

基本解近似法は、日本語文献だと、代用電荷法の方が通りがいいっぽい。理由としては、日本語の唯一の成書 代用電荷法とその応用 : 境界値問題の半解析的近似解法 http://webcatplus.nii.ac.jp/webcatplus/details/book/ncid/BN0003658X.html が、代用電荷法…

symplectic群小史

序 19世紀(1)アーベル積分とsymplectic群 19世紀(2)line complexとsymplectic群 20世紀(1)正準変換とsymplectic群 20世紀(2)Fourier変換とmetaplectic群 補足:Hankel変換とsl(2,R) 21世紀 序 2004年に、 La double origine du groupe symplectique https://d…

西暦189X年、不変式論は核の炎に包まれた

DieudonnéとJames B Carrellという人の1970年の論説Invariant theory, old and new https://doi.org/10.1016/0001-8708(70)90015-0の冒頭に Invariant theory has already been pronounced dead several times, and like the phoenix it has been again and …

仮想"ピサの斜塔"実験

ガリレオのピサの斜塔の実験に関する最古の記録は、ガリレオの弟子Vincenzo Vivianiが1650年代に書いて、1717年に出版された本にあるものらしく、事実に基づくものではないという意見もある。それはそれとして、 Science Secrets: The Truth about Darwin's …

Maxwell方程式の表現論II(1)masslessスカラー場

The minimal representation of the conformal group and classic solutions to the wave equation https://arxiv.org/abs/0901.2280 を読んで Maxwell方程式の表現論 https://m-a-o.hatenablog.com/entry/20150621/p1 が正しくないことに気付いて、とりあえ…

Lennard-Jones流体の分子シミュレーション(2)分子動力学vsメトロポリス法

以前、分子動力学の実装を作ったけど、諸条件、諸パラメータをこれと合わせることで、メトロポリス法と分子動力学で結果を比較できる。メトロポリス法を使ったことがなかったので、やってみようと思った。分子動力学では、NVE一定の計算が、一番基本的になる…

組合せ範疇文法の漸進的構文解析

随分と昔に、CCG(combinatory categorial grammar/組み合わせ範疇文法)のパーサを作った。 https://m-a-o.hatenablog.com/entry/20160614/p3この時の実装は、CYK法に近いもので、ボトムアップ構文解析である。ところで、人間が自然言語を処理する時は、単語…

中世の数理科学

Wikipediaによれば、mathematicsの語源は、ギリシャ語のmáthēmaで、knowledge, study, learningを意味してたそうだ。polymath(博学)という単語には、原義が残っている。そして、ラテン語や英語に於いて、1700年頃まで、mathematicsという単語は、占星術(時々…

遺伝子の起源

生物が持つ遺伝子は、翻訳されて、数百〜数千アミノ酸のタンパク質になるのが一般的である。数百〜数千残基の長大なタンパク質or遺伝子が、ランダムにアミノ酸やヌクレオチドの重合を繰り返しただけで出現する確率は、普通に考えると極めて低い。ヒトの遺伝…

対数共起頻度のSVD

NLP

対数共起頻度を用いた四項類推:word2vecとPMI との比較 https://doi.org/10.11517/pjsai.JSAI2020.0_4Rin177という報告を読んだ。四項類推は、queen-woman+man ≒ kingみたいなタイプの類推問題。word2vecは、この手の問題によく答えられるということになっ…

NVIDIA Thrustで分子動力学(1)単原子分子集団のMD

MDは時々使うけど、自分で実装したことがなかったので、一回くらいは、やっておくべき気がした。実装 https://gist.github.com/vertexoperator/1d2b4c6b71138d59484665cb524143ac最初なので、相互作用はLennard-Jonesポテンシャルのみで、周期境界条件、NVE(…

Fermi推定の推定

Fermiが書いた文書My Observations During the Explosion at Trinity on July 16, 1945では、1945年7月に行われたトリニティ実験に於ける原爆のエネルギー推定を行っているが、どういう計算をしたのか詳細は書かれていない。以下に、数値情報が含まれている…

Tales of Tetranitrogenia

高校化学(≒量子力学以前の化学)の知識だと、窒素4つからなる分子は、以下のように、2つの構造異性体が考えられる。周期表で、窒素の下にあるリン元素の場合は、リン2分子からなる二リンと、正四面体構造を取る白リン(黃リン)があるらしい。リンの場合は、二…

コンピュータ以前の数値計算(2)20世紀初頭の計算需要

コンピュータ以前の数値計算(1) 三角関数表小史 - の続き。18世紀や19世紀のヨーロッパでは、三角関数表のように、事前に数表を作っておいて、必要なら補間して参照するとかいうのが数値計算の典型的な運用だったようである。1938年になっても、アメリカでは…

調和代数幾何解析(調和解析と不変式論)

GoodmanとWallachの本Symmetry, Representations, and Invariants https://www.amazon.co.jp/dp/1441927298の12章を眺めていて、ふと、ここに書いてあるのは、調和解析+代数幾何 = 調和代数幾何解析だなぁと思った(勝手に命名)。まぁ、この本の範囲では、"解…

Siegelモジュラー形式環と計算機代数

Rungeという人の1993年の論文On Siegel modular forms. Part I. https://doi.org/10.1515/crll.1993.436.57に、Siegelモジュラー形式環の構造が、有限群の不変式の計算と、環の商体内での正規化(整閉包)によって計算できるという結果が書いてある(Theorem3.1…