symplectic群小史

2004年に、
La double origine du groupe symplectique
https://doi.org/10.1016/S0723-0869(04)80003-3
という論文が出ているので、フランス語で問題ない場合、これを読んだ方がいい。

symplectic群は、別に定義が複雑というわけではないので、天下り的に定義を受け入れる心理的抵抗も大きくはないかもしれないが、他の古典群と比べると、そのモチベーションは些か分かりにくく、現在のところ、線形正準変換のなす群というのが、最短で一応の納得を得られる人数が最大の説明じゃないかと思う。一番簡単な場合は特殊線形群と同型になるので除外するとして、一般次元のsymplectic群は、こういう理解の仕方で発見されたわけではないらしい。線形正準変換の群として認識されてたら、一般線形群特殊線形群に倣って、正準線形群とか命名されてたかもしれないけど、そうはなってない。

20世紀になって解析力学を学ぶ動機を古典力学に求める必要はなくなり、symplectic群を線形正準変換群として理解する仕方も、それと並行するかのように出現している。直交群だとか、もう少し複雑なガリレイ群やポアンカレ群にしても、基本的には、"空間"や時空に作用する。それに比べると、そもそも、位置と運動量では、単位が全然違うから、これを一律に扱うのは素朴な発想とは言えないだろうし、通常の空間認識能力は製図や模型製作を通して鍛えられるとしても、"相空間"認識能力を鍛えるような訓練は(少なくとも現在のところ)ない。symplectic群が、相空間の変換群以外の筋道から発見されたのも、そういう発想が、それほど直感的でないことと無関係ではないかもしれない。

とはいえ、symplectic群の発見(not 命名)は19世紀にされてるので、純数学的な動機も確認してみると、何か得る所もあるかもしれない。



あちこちで書かれているけど、symplectic groupという名前は、1939年に出版されたWeylの本で使われたのが初出。
The Classical Groups: Their Invariants and Representations
https://books.google.co.jp/books?id=2twDDAAAQBAJ&pg=PA165

Chapter VIの脚注には、以下のように書いてある。

The name “complex group” formerly advocated by me in allusion to line complexes, as these are defined by the vanishing of antisymmetric bilinear forms, has become more and more embarrassing through collision with the word “complex" in the connotation of complex number. I therefore propose to replace it by the corresponding Greek adjective “symplectic." Dickson calls the group the "Abelian linear group" in homage to Abel who first studied it.

元々、Weylは、line complexを念頭に置いて、complex groupと呼ぼうとしたが、複素数のcomplexと紛らわしかったとか、Dicksonは、Abelが最初に研究したことにちなんで、Abelの線形群と読んだとか書いてある。現在、abelian groupは、可換群の意味で使われるので、これまた紛らわしい。冒頭の論文の"2つの起源"というのも、この2つの名前に関係している。


19世紀(1)アーベル積分とsymplectic群

"Abelの群"という呼称は、1870年のJordanの本の171ページに見られる。フランス語なので、"Groupe abélien"と書かれてる。
Traité des substitutions et des équations algébriques
https://books.google.co.jp/books?id=TzQAAAAAQAAJ&pg=PA171

Dicksonは、1874年生まれなので、"Abelian"と呼んだのは、Jordanに従っただけなんだろう。Dicksonは、多くの論文や本で、"abelian"と呼んでるけど、一例として、以下の論文を挙げておく
A New Definition of the General Abelian Linear Group
https://doi.org/10.2307/1986406


Jordanの本には、

Dans ses importantes recherches sur la transformation des fonctions abéliennes, M. Hermite a dû résoudre le problème suivant:
(訳:In his important research on the transformation of abelian functions, M. Hermite had to solve the following problem:)

と書いてあって、(Weylが言うように)アーベルが、この群を調べたことがあったのかは分からない。ここで言及されてるHermiteの研究は、以下の1855年の論文らしい。

Sur la théorie de la transformation des fonctions abéliennes
https://archive.org/details/bub_gb_4Yne2y_8fbUC

式(3)~(7)あたりに、(4次元の)symplectic群を思わせる記述がある。現代では、symmplectic形式を、J=\left(\ \begin{array}{ll} O & I \\ -I & O \end{array} \right) \in Mat(4)によって、(u,v) \mapsto u^{T} J vという形に取ることが多いが、Hermiteの基底の取り方は違うので注意。非退化歪対称双線形形式f(u,v)に対して、f(u,v)=0 \Rightarrow f(Au, Av)=0を満たす線形変換A \in GL(4)を決定するという問題を解こうとしている。f(u,v)=f(Au,Av)なら、条件は満たされるので、この群は、symplectic群を含む。群が作用するのは、アーベル積分の周期で、現在からすれば、特に意外なことはない。


ずっと後になって、1942年、Siegelは、"symplectic geometry"というタイトルの論文を書いた。
Symplectic Geometry
https://doi.org/10.2307/2371774
この論文は、Siegel上半平面について調べた論文で、動機は、Siegelモジュラー形式の理論にあったと思われる。symplectic geometryという単語が使われたのは、おそらく、この論文が最初だけど、当時のSiegelが、一般的なsymplectic多様体の概念とかを持っていたかどうかは分からない。

"symplectic多様体"という単語は、1950年頃、Ehresmannによって使われてるのを確認できる。
Sur les variétés presque complexes
http://www.numdam.org/item/SB_1948-1951__1__291_0/
で、"variété symplectique"と書かれている。英語圏だと、1953年のBulletin of the American Mathematical Societyの記事
The annual meeting in St. Louis
https://doi.org/10.1090/S0002-9904-1953-09697-5
のCalabiの発表報告に、"symplectic manifold"という単語が出ている。



19世紀(2)line complexとsymplectic群

symplectic群のもう一つの起源であるline complexは、1868年のPlückerの以下の本で導入された概念らしい。

Neue Geometrie des Raumes
https://books.google.lu/books?id=5HVtAAAAMAAJ

line complexは、line congruence(線叢)と似た概念で、グラスマン多様体Gr(2,4)の部分2次元多様体がline congruenceで、部分3次元多様体が、line complexと言っていい。line complexに比べると、line congruenceは動機も分かりやすく、歴史も古いっぽい。line congruenceは、以下の1860年のKummerの論文で導入されたと、よく書いてある。

Allgemeine Theorie der gradlinigen Strahlensystem
https://doi.org/10.1515/crll.1860.57.189

論文タイトルにある"Strahlensystem"(英語ではray system)というのは、名前的にも、光学研究から現れてきた概念らしい。点光源から放射される一本の光線の軌道は、幾何光学によって記述されるが、光線の集合(多分、これが、ray systemなんだと思う)を考えると、ある時刻に光線の集合が到達する面(波面、wavefront)を考えることができる。波面の伝播は、eikonal方程式で記述される。光線は、この波面に直交し、波面の法線集合と光線の集合を同一視することができる(光線軌道は、大域的には曲がってるかもしれないので、法線そのものではなく、光線の接線と波面の法線が一致するだけ)。曲面の法線集合は、曲面でパラメトライズされた直線の集合と見ることが出来、これが、line congruenceの由来。曲面の法線集合として得られるline congruenceは、法線叢と呼ばれる。

光学研究という動機を踏まえて、現代の言葉でいうと、当時の数学者たちが考えたかった直線の集合は、affine Grassmann多様体Graff(1,3)ということになる。affine Grassmannianという用語は、2つの異なる意味で使われるけど、ここでは、n次元アフィン空間のk次元アフィン部分空間(向き付けは無視する)の集合Graff(n,k)を指している。紛らわしいので、こっちは、Euclidean Grassmannianとかに改称してほしい(多分、歴史的には、こっちの用法の方が古いとは思うのだけど)
cf) Affine Grassmannian (manifold)
https://en.wikipedia.org/wiki/Affine_Grassmannian_(manifold)
3次元ユークリッド空間中の曲面が与えられると、その法線叢によって、Graff(1,3)の2次元部分空間が定まる。一方、Graff(1,3)はGr(2,4)に埋め込むことができて、上に定義した意味でのline congruenceが得られる。

19世紀は、光学研究が非常に盛んになった時代で、光学は(天体力学や数理弾性論、測地学などと同様)、数理物理の重要な一分野だったのだと思われる。Kummerは1864年に、Kummer曲面を研究したが、これは、Fresnel wave surfaceの一般化で、やっぱり光学研究が切っ掛けとなっている。line congruenceが、光学研究から出てきた概念であるのに比べて、line complexは、純粋に数学的な興味から研究された概念なのだと思う(多分)。


symplectic群の発見という観点では、line complexの中でも、linear line complexというものが重要で、Gr(2,4)は、プリュッカー埋め込みの像として、5次元射影空間内で二次のプリュッカー関係式で定義できるが、プリュッカー関係式に加えて、一次式で定義される3次元集合を、linear line complexと呼ぶ。プリュッカー関係式+二次式だと、quadratic line complexということになるらしい。

Plücker自身は、symplectic群を考えたことはなく、冒頭の論文によれば、linear line complexの考察からsymplectic群に到達したのは、Sophus Lieらしい。けど、詳細の説明はなく、
Emergence of the Theory of Lie Groups: An Essay in the History of Mathematics 1869–1926
https://books.google.co.jp/books/about/Emergence_of_the_Theory_of_Lie_Groups.html?id=QbB7_YOrruoC
という本を読めと書いてあるものの、分厚いのでpass。以下、linear line complexとsymplectic群の関係だけ書いておく。

V=\mathbf{R}^4として、Gr(2,4)のプリュッカー埋め込み先は、\bigwedge^2 Vの射影化なので、超平面は、ある\sigma \in (\bigwedge^2 V)^{*}によって定まる。\sigmaは、V上の歪対称双線形形式を与えるので、仮に、非退化であれば、(V,\sigma)は、symplecticベクトル空間になる。双線形形式が非退化であることの必要十分条件は、表現行列の行列式が0でないことなので、\sigmaの非退化条件は、強い条件ではない。

二次元ベクトル空間W \subset Vに対して、プリュッカー埋め込みは、一次独立な2つのベクトルu,v \in Wから u \wedge v \in \bigwedge^2 Vを射影化した元を作ることで定まる。これが、symplectic形式から定まる一次式\sigma(u \wedge v)=0を満たすならば、Wは、(V,\sigma)のisotropic部分空間で、次元が最大なので、Lagrangian subspaceになる。従って、genericなlinear line complexは、Lagrangian Grassmann多様体と同じものになる。

Lagrangian Grassmannianは、Symplectic群Sp(2n,\mathbf{R})を、Siegel放物型部分群で割って得られる等質空間として定義することもできる。Siegel放物型部分群は、Siegelの論文"symplectic geometry"で現れていることにちなんで、命名されたらしい。Lagrangian Grassmannianは、genericなlinear line complexの高次元への一般化だと言える。


linear line complexの高次元化には、Lie quadricsというものもある。これはSp(4,\mathbf{R}) \simeq Spin(3,2)という同型に付随して、Lie quadricsが3次元の時のみ、偶然、Lagrangian Grassmann多様体と同型になる。プリュッカー関係式を
W_{12}W_{34}-W_{13}W_{24}+W_{14}W_{23}=0
として、W_{13}+W_{24}=0で定義される超平面との交叉を見ると、A^2-B^2+C^2+D^2-E^2=0という関係式を得られる(W_{12}=A+B,W_{34}=A-B,W_{13}=C,W_{24}=-C,W_{14}=D+E,W_{23}=D-Eとした)。この二次超曲面に、群O(3,2)が作用することは明らかで、Sp(4,\mathbf{R})も作用することになる。

u=(u_1,u_2,u_3,u_4),v=(v_1,v_2,v_3,v_4) \in \mathbf{R}^4と書く時、プリュッカー埋め込みをW_{ij}=u_{i}v_{j}-u_{j}v_{i}で定義すれば、一次式W_{13}+W_{24}=0は、\mathbf{R}^4上の標準的なsymplectic形式f(u,v)=u_1 v_3 + u_2 v_4 - u_3 v_1 - u_4 v_2が消えるという条件に対応している。

Lieは、Lie sphere geometryと呼ばれるものを考えることで、Lie quadricsを発見したらしい。Lie sphere geometryでは、n次元ユークリッド空間中の(向き付けられた)(n-1)次元球面の集合を考える。ユークリッド空間中の直線の集合を考える射影幾何と似た発想だと思う。球面の集合を、パラメータ(s_1,\cdots,s_n,\alpha,\beta)で、以下のように与える
(\alpha-\beta)(x_1^2+\cdots x_n^2) - 2(s_1x+\cdots s_n x_n) + (\alpha+\beta)=0
これが、一般に球面を与えることは明らか。\alpha=\betaの場合は、退化して平面になるし、\alpha+\beta=0の場合は、退化して点になるが、こういうのも同列に扱うというのは、20世紀数学では、定石になった。

球面の半径をRとして、\gamma=R(\alpha-\beta)とすると、\alpha^2-\beta^2- (s_1^2 + \cdots + s_n^2) + \gamma^2=0となる。これが、Lie quadricsで、n次元ユークリッド空間中の(向き付けられた)(n-1)次元球面の集合を\mathbf{P}^{n+2}(\mathbf{R})内の二次超曲面として実現することができた。明らかに、群O(n+1,2)が推移的に作用する。

というわけで、Lie quadricsは、linear line complexのもう一つの高次元化を与えていると言える。


1880年代の後半、Killingは、単純Lie代数の分類を調べ、その中で、C型の単純Lie代数に対応するLie群を考えた。この群は、C型という以外に、group of a linear line complexという感じで理解されてたっぽい。Killingの論文を直接確認はしてないけど

Wilhelm Killing and the Structure of Lie Algebras
https://www.jstor.org/stable/41133645

によれば、EngelとKillingの1880年代の手紙のやり取りの中で、symplectic群は、Gruppe des linearen Complexeなどと呼ばれている。EngelとKillingは、この群を新しいものと考えていたらしい。Lieは、一般(偶数)次元でのsymplectic群の存在を認識してはいたかもしれないが、公に発表したのは、Killingが最初っぽい。Engelは、1883年頃から、Lieと共同研究を行っていたそうなので、こうした結果は、Engelを介して、比較的速やかに共有されただろう。

ちょっと面白いことに、1897年のDicksonの論文では、Killingの研究を引きつつ、symplectic群を、"abelian linear group"ではなく、"general projective group of a linear complex"と呼んでいる。
Systems of continuous and discontinuous simple groups
https://doi.org/10.1090/S0002-9904-1897-00410-4


20世紀(1)正準変換とsymplectic群

そんなわけで、symplectic群には、大きく2つの(ほぼ)独立した起源があるけど、どちらも、解析力学から直接出てきたというわけではない。解析力学で、暗黙の内に、symplectic群(あるいはsymplectic代数)に遭遇することは、あったものと思われるが、線形正準変換とsymplectic群の関連に明確に言及した最古の記述は、私が探した限りでは、1934年の論文

On the linear conservative dynamical systems
https://link.springer.com/article/10.1007/BF02413437

にある。論文では、symplectic群のことを、"the subgroup consisting of those contact transformations in which all transformation formulae contain but linear forms which are independent of t"と書いている。そして、この群の研究は、アーベル積分の周期の変換理論とformal analogyがあると述べている。

接触変換の系統的な研究は、1874年のLieの論文に起源があるとされている。Lieは、線形とは限らない一般的な接触変換を調べたいと思ってたのか、特に、線形正準変換を取り上げてる形跡はない。

Siegelは、1941年に
On the Integrals of Canonical Systems
https://doi.org/10.2307/1969262
という論文を書いていて、"linear contact transformation"という名前で、線形正準変換を扱っているが、アーベル積分やlinear line complexへの言及は、特にない。


現代の人は、symplecticという単語から、最初に解析力学を連想すると思う(要出典:まぁsymplectic数値積分などが一番有名かもしれない)のだけど、そういう風に変化したのが、いつ頃のことかは分からない。そもそも、20世紀の物理の人にとっては、アーベル積分やline complexは、馴染みのある知識というわけでもないので、symplectic群への関心は、最初から正準変換としての興味から始まっただろう。

ブラジルの物理学者Mário Schenbergという人が、1956年に書いたらしい論文
On the grassmann and clifford algebras I
http://acervo.if.usp.br/index.php/on-the-grassmann-and-clifford-algebras-i
には、

The relation between $L_n$ and the Heisenberg commutation rules shows that the symplectic group plays a fundamental role in nature. In recent years the importance of the symplectic group in the classical mechanics has been more clearly understood.

という記述がある。ここの$L_n$は、論文中の式(2)で(Clifford代数との類似性を強調して)定義される結合代数で、symplectic代数の普遍展開環になっている。


別に何か非自明な発見があったというわけでもなく、symplectic群が線形正準変換の群だという認識は1950年代には一般的に知られてたのかもしれない。けど、1971年になっても、

Linear Canonical Transformations and Their Unitary Representations
https://doi.org/10.1063/1.1665805

という論文が出ていて、最初に"the group of linear canonical transformations in a 2N‐dimensional phase space is the real symplectic group Sp(2N)"であることを示すと、わざわざ書いている。この論文におけるsymplectic群は、調和振動子のdynamical symmetry groupという役割を担っている。


20世紀(2)Fourier変換とmetaplectic群

最古のsymplectic幾何学の"教科書/講義録"を(英語、フランス語、ドイツ語、日本語あたりで)探してみると、1970年代後半に出版されたらしい4冊の本が見つかった。
Géométrie symplectique et physique mathématique
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000096-I009135785-00

Algèbres de Heisenberg et géométrie symplectique des algèbres de Lie
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000096-I008955450-00

Lectures on Symplectic Manifolds
https://books.google.co.jp/books/about/Lectures_on_Symplectic_Manifolds.html?id=H_zCCQAAQBAJ

Symplectic geometry and Fourier analysis
https://www.amazon.co.jp/Symplectic-Geometry-Fourier-Analysis-Mathematics/dp/0486816893

1冊目はSouriauによるもので1975年出版。2冊目は、知らない人による本で、内容も不明。

3冊目はWeinsteinの本で、48ページしかない。Introductionの冒頭には、以下のように書いてある。

I like to think of symplectic geometry as playing the role in mathematics of a language which can facilitate communication between geometry and analysis. On the one hand, since the cotangent bundle of any manifold is a symplectic manifold, many phenomena and constructions of differential topology and geometry have symplectic "interpretations", some of which lead to the consideration of symplectic manifolds other than cotangent bundles. On the other hand, the category of symplectic manifolds has formal similarities to the categories of linear spaces used in analysis. The problem of constructing functorial relations which respect these similarities is one aspect of the so-called quantization problem; using the solutions of this problem which are presently available, one can construct analytic objects (e.g., solutions of partial differential equations, representations of groups) from symplectic ones.

symplectic幾何学が、幾何と解析の対話を促進することに期待すると述べ、最後の行に、"analytic objects"として、表現論と偏微分方程式論への言及がある。表現論の中で、特に、非コンパクト群のユニタリ表現の研究については、量子論を動機として始まった部分が、かなりあるけど、また、1960年代に、Kirillovの軌道法やMackeyの理論など、"量子化"の方法が開発されつつあって、そういう話を念頭に置いたものと思われる。一方、偏微分方程式論では、(波動光学に対する幾何光学、量子力学に対する古典力学の構成を一般化した)半古典解析の手法が1960年頃から出現したっぽい(よく知らないけど...)ので、そのへんの話を考えてるんだろう。


最後のはWallachによる本で、目次を見る限り、symplectic幾何学というより、表現論の本に見える。Fourier analysisとあるのは、多分、L^2(\mathbf{R}^n)に対するFourier変換が、線形正準変換\left( \begin{array}{ll} O & I \\ -I & O \end{array} \right) \in Sp(2n,\mathbf{R})の"量子化"のように解釈できるという話に関わっている。

正準変換の"量子化"という言い方は、普通しないと思うし、数学的に正当化できるものではないと思うけど、次のような意味で使っている。古典的な物理量=相空間上の関数、量子論的な物理量=(波動関数に作用する)エルミート演算子で、エルミート演算子は、波動関数のユニタリ変換の無限小生成子でもある。古典力学には、波動関数に相当するものがないが、量子力学で物理量の時間発展を与えるHeisenberg方程式の古典類似は、Liouville方程式だろうから、この方程式から、正準変換(の一パラメータ変換群)が得られる(この変換は、相空間上の関数に対して定まるが、大域的な座標が取れる場合は、座標の変換が決まる。また、T^{*}\mathbf{R}^nでは、全ての正準変換が、この形で得られるというのが、ネーターの定理の骨子)。そして、相空間上の関数→エルミート演算子という対応を、"量子化"と呼ぶなら、それぞれから得られる正準変換とユニタリ変換について、後者を前者の"量子化"と呼んでも、言葉の濫用ではないだろう。


Fourier変換を少し一般化したものに、fractional Fourier transformというのがあって、1929年のWienerの論文

Hermitian Polynomials and Fourier Analysis
https://doi.org/10.1002/sapm19298170

や、アメリカの物理学者Edward Condonという人の1937年の論文

Immersion of the Fourier Transform in a Continuous Group of Functional Transformations
https://doi.org/10.1073/pnas.23.3.158

あたりが嚆矢らしい。

ユニタリ変換\mathcal{F}で、\mathcal{F}^4=Iであるものに対して、\mathcal{F} = \exp( i \pi \hat{F} / 2 )となる演算子\hat{F}を見つければ、\exp(i \alpha \hat{F})によって、ユニタリ変換の族が得られる。Condonは、こういう発想で、fractional Fourier transformを得たっぽい。論文には、以下のように書いている。

Now every continuous group of transformations is generated by an Hermitian operator, and conversely every Hermitian operator generates a group of unitary transformations. Hence there exists a continuous group of functional transformations containing the ordinary Fourier transforms as a subgroup. In this paper the continuous group is explicitly found.

ここで"the ordinary Fourier transforms"と言ってるのは、この前の部分で説明されていることで、Fourier変換で生成される位数4の巡回群を指している。一次元の場合、fractional Fourier transformは線形正準変換\left( \begin{array}{ll} \cos(\alpha) & \sin(\alpha) \\ -\sin(\alpha) & \cos(\alpha) \end{array} \right) \in Sp(2,\mathbf{R})の"量子化"と思うことができる。WienerもCondonも、具体的な応用とかは何も書いてない。多分、偶々、このような連続群があるだろうと思いついただけで、あまり深く意味を考えたりはしなかったのかもしれない。

それほど明らかでないと思うけど、形式的には、Fourier変換は、
\mathcal{F} f = e^{i \dfrac{\pi}{4}(-\partial_x^2+x^2-1)} f
と書ける。肩に載ってる作用素は、Fourier変換と可換な演算子を考えれば、最初に思いつくものだろう。これは、(余分な定数が付いてることに、目を瞑れば)調和振動子のHamiltonianそのものなので、固有多項式はHermite関数で書け、Hermite関数への作用を調べれば、\mathcal{F}が確かにFourier変換であることが分かるだろう

これを認めれば、fractional Fourier transformは
\mathcal{F}_{\alpha} = e^{ i \dfrac{\alpha}{2}(-\partial_x^2+x^2-1)}
となる。当然、Hermite関数は、fractional Fourier transformの固有関数でもある。従って、積分核は、調和振動子のpropagatorと同じものになる(これはまた、数学で、Mehler kernelと呼ばれていたものと本質的に同じ)

fractional Fourier transformは、波動関数に対する変換なので、どのような正準変換に対応しているか見るには、位置演算子と運動量演算子が、fractional Fourier transformの無限小生成子で、どう時間発展するか見ればいい。無限小生成子は、調和振動子ハミルトニアンと同じなので、相空間の回転が出るだろう。


fractional Fourier transformは、古典的には、相空間の回転なので、今までの話の流れから、任意の線形正準変換に対応するユニタリー変換を作ろうとするのは自然な発想ではある。実際に、そういう発想をしたかは知らないけど、1950年代末〜1960年代初頭、複数の数学者が独立にmetaplectic表現を発見した。
Foundations of the theory of dynamical systems of infinitely many degrees of freedom
http://gymarkiv.sdu.dk/MFM/kdvs/mfm%2030-39/mfm-31-12.pdf

Linear Symmetries of Free Boson Fields
https://doi.org/10.2307/1993745

Sur certains groupes d'opérateurs unitaires
https://doi.org/10.1007/BF02391012

metaplectic表現は、ナイーブには、symplectic群Sp(2n,\mathbf{R})T^{*}\mathbf{R}^{n}への作用(つまり線形正準変換)の"量子化"と思うことが出来る。"量子化"して、Sp(2n,\mathbf{R})L^2(\mathbf{R}^n)上のユニタリ表現が出ればいいのだけど、実際は、symplectic群の二重被覆であるmetaplectic群の表現にしかならない。また、この表現は、既約ではなく、2つの既約表現の直和になる。この2つの既約表現は、関数の偶奇によって分かれている。

metaplectic表現には、
・oscillator representation
・Segal-Shale-Weil representation
・Weil representation
などの別名がある。"oscillator representation"という名前は、1988年に、Roger Howeが使ったそうで、多分、"symplectic群"が、調和振動子のdynamical symmetry groupであるという認識から来ている名称だと思う。Segal-Shale-Weil representationは、Kashiwara-Vergneの1978年の論文で使われてる。3人の発見者が、独立に論文を書いてるので、全員の名前を冠したのだと思う。Weil representationという呼称は、誰が使い始めたのか知らないけど、Weilは3人の発見者の中で、論文を書いたのは最後なので、適切な名前とは言えない。"metaplectic"という名前は、Weilによるらしい。以下では、metaplectic表現という名前を使うことにする。


ついでに、Lie sphere geometryのところで書いた通り、so(3,2) \simeq sp(4,\mathbf{R})で、1963年に、Diracは、so(3,2)の無限次元表現を構成したが、これは、metaplectic表現と同じものになっている。論文には、3+2次元anti de Sitter群とsymplectic群が局所同型であることをJostに指摘されたとか書いてある

A Remarkable Representation of the 3 + 2 de Sitter Group
https://doi.org/10.1063/1.1704016

Dirac1920年代後半には、非コンパクト群の既約な無限次元表現を構成することに興味を持っていたらしいけど、ローレンツ群やポアンカレ群が関心の中心だった。1937年のCondonの結果を、追求する人が当時いたならば、metaplectic表現が、最初の既約な無限次元表現の例を提供していたかもしれない。このクラスの積分変換としては、fractional Fourier transform以外に、Fresnel transform/imaginary Gauss-Weierstrass tranformも、(名前的に)19世紀から知られてたっぽいから、metaplectic表現は、殆ど眼前に転がってたようなものだけど、誰にも拾われることはなかった。Condonは、論文で、von Neumannに謝辞を述べており、von Neumannは、こういった問題のことも知ってただろうから、一番いい位置にいたはずだけど、結局何もしなかった。

とりあえず、metaplectic表現によって、標語的には、線形正準変換の量子化が得られ、Fourier変換は、ユニタリ変換がなす群の一つの元に過ぎないということになった。Wallachの本のタイトルにFourier analysisが含まれるのは、こういう理由だと思う。


symplectic群(正確にはmetaplectic群)のmetaplectic表現によって得られる積分変換は、quadratic Fourier transformという名前で呼ばれることもある。"quadratic"という接頭辞は、直接的には、以下の1986年の論文で見られるものが、探した限りで最古っぽい。

Intégrales de Fourier quadratiques et calcul symbolique exact sur le groupe d'Heisenberg
https://doi.org/10.1016/0022-1236(86)90006-6


1981年のGuilleminとSternbergの論文
The metaplectic representation, Weyl operators and spectral theory
https://doi.org/10.1016/0022-1236(81)90042-2
の最後のconcluding remarksでは、metaplectic群を、"a group of Fourier integral operators"と見ることができると述べている。Fourier integral operatorは、Hörmanderが(多分、擬微分作用素の拡張として)1970年代初頭に導入した概念と思うけど、私が、解析学のことは、よく知らないので、動機や有用性は分からない。

GuilleminとStenbergの論文で述べられていることだが、このようなFourier積分作用素として実現できる群の表現として知られているものは、metaplectic表現以外に、SO(4,2)L^2(S^3)上の極小表現がある。SO(4,2)の極小表現は、SO(4,2)のKepler多様体(三次元球面の余接空間T^{*}S^3の部分空間である)への作用の"量子化"として理解できる。

【余談】GuilleminとStenbergの論文の主な結果は、Lagrangian Grassmann多様体上のhalf-formの空間に、metaplectic表現の既約成分の一方(極小表現と呼ばれる方)を実現するという話で、面白い。half-formは、以下のmetalinear群と呼ばれる一般線形群の二重被覆
ML(n,\mathbb{R}) = \{U\in GL(n,\​mathbb{R}),z\in \mathbb C^*\mid z^2 = \det U\}
の指標(U,z) \mapsto z^{k}があって、frame bundleの構造群がmetalinear群に持ち上がる時(Riemann多様体にSpin構造を定義する時と同様の考え方で、これが可能な時は、metalinear構造と呼ぶ)に定義できる、k=1の一次元表現に対する随伴束の切断。この指標は二乗すると、\det(U)になるので、形式的には、(自然表現の)n次外積代数の平方根を取った表現\sqrt{\bigwedge^n \mathbf{R}^n}のように思えるところから、half-formという名前が来ているが、普通の微分形式と違って、幾何学的感覚で理解しうるものなのかは知らない。metalinear群とmetaplectic群には、一般線形群のsymplectic群への埋め込みGL(n,\mathbf{R}) \to Sp(2n,\mathbf{R}) , A \mapsto \left( \begin{array}{ll} A & 0 \\ 0 & (A^{T})^{-1} \end{array} \right)を、持ち上げることが出来て、また、metaplectic表現がsymplectic群の表現にならないのは、このmetalinear群の部分が原因になっている。


補足:Hankel変換とsl(2,R)

Hankel変換は、高次元Fourier変換で回転不変性を仮定して、動径成分のみの計算に落とすことで得られる積分変換である。

Fourier変換が、\left( \begin{array}{ll} O & I \\ -I & O \end{array} \right) \in Sp(2n,\mathbf{R})量子化と解釈できたのと似たようなことが、Hankel変換でもあり、特に、fractional Hankel transformも考えることができる。fractional Hankel transformの詳細は、例えば、論文

A Fractional Power Theory for Hankel Transforms in L2(R+)
https://doi.org/10.1016/0022-247X(91)90271-Z

にあるが、fractional Fourier transformでHermite関数の果たした役割を担うのが、一般化Laguerre関数になるという以外、殆ど同じである。

Hankel変換は、一次元の積分変換だけど、Fourier変換の時と同じく、metaplectic群の作用にまで拡張できる。但し、直交変換で不変な関数のn次元Fourier変換(n>1)を、変数分離する時、Hankel変換の次数は、\nu = \dfrac{n}{2} - 1で、次数が違えば、出てくる表現は、それぞれ違うものになる。この点については、Kostantの2000年の論文

On Laguerre polynomials, Bessel functions, Hankel transform and a series in the unitary dual of the simply-connected covering group of $Sl(2,\mathbb R)$
https://www.ams.org/journals/ert/2000-004-08/S1088-4165-00-00096-0/

に詳しく書かれている。\nu=-1/2では、metaplectic表現の既約成分の一方(極小表現)、\nu=0では、limit of discrete series、\nuが正整数なら離散系列表現が出る。

一次元Fourier変換では、Hankel変換の方で見ても(当然だが)metaplectic表現で、2つの既約表現に分解して、それぞれの表現空間に作用するHankel変換の次数は-1/2と+1/2になる。これは、以下のささやかな恒等式
J_{-1/2}(x) = \sqrt{\dfrac{2}{\pi x}} \cos(x)
J_{1/2}(x) = \sqrt{\dfrac{2}{\pi x}} \sin(x)
から分かる通り、Fourier余弦変換とFourier正弦変換になる。J_{\nu}(x)は、第一種Bessel関数。一次元の直交群O(1)は、単位元と鏡映変換x \mapsto -xのみからなり、前者は、鏡映変換で不変だが、後者は、不変ではない。


ちゃんと確認してないことだけど、高次元Fourier変換とHankel変換の関係は、多分、dual pairSp(2n,\mathbf{R}) \supset SL(2,\mathbf{R}) \times O(n)によって解釈されるのだろうと思う(Mp(2n,\mathbf{R})のmetaplectic表現を、Mp(2,\mathbf{R}) \times O(n)の作用で既約分解して、O(n)の一次元表現に対応するMp(2,\mathbf{R})の既約表現を見ればいいのだろう)。このdual pairについては、Kazhdan-Kostant-Sternbergの1978年の論文

Hamiltonian group actions and dynamical systems of calogero type
https://doi.org/10.1002/cpa.3160310405

で説明されているが、大した話でもなくて、\left( \begin{array}{ll} a  & b  \\ c & d \end{array} \right) \in SL(2,\mathbf{R})は、\left( \begin{array}{ll} a I & b I \\ c I & d I \end{array} \right) \in Sp(2n,\mathbf{R})で埋め込まれ、一方、A \in GL(n,\mathbf{R})は、\left( \begin{array}{ll} A & 0 \\ 0 & (A^{-1})^T \end{array} \right) \in Sp(2n,\mathbf{R})で埋め込まれる。

後者の埋め込みは、V=\mathbf{R}^nとして、Sp(2n,\mathbf{R})を、相空間T^{*}Vに作用する群と見た時に、Vに作用する線形変換A \in GL(V)を、T^{*}Vへの作用にどう拡張するか考えれば自然に出る。量子化した場合は、q_1,\cdots, q_nに線形変換Aが作用する時、\dfrac{\partial}{\partial q_1}, \cdots , \dfrac{\partial}{\partial q_n}が、どのように変換を受けるかという問題に対応している。

一般に、A \in GL(n,\mathbf{R})の埋め込みは、SL(2,\mathbf{R})の埋め込みと可換ではないけど、いつ可換になるか調べると、線形代数の勉強を始めたばかりの大学一年生でも容易に示せる通り、A \in O(n)が条件になる。従って、上のdual pairは、(配位)空間の回転対称性O(n)を分離して、残りの変換を取り出したいという"お気持ち"を表明している。


metaplectic表現を、上のdual pairで分解する問題は、しばしば、(symplectic代数やmetaplectic群を陽に出すことなしに)代数的に扱われてる。例えば、GoodmanとWallachの本

Symmetry, Representations, and Invariants
https://books.google.co.jp/books/about/Symmetry_Representations_and_Invariants.html?id=tbSX5VPE4PIC

の5.6.4節 "spherical harmonics"などにある(n=1,2は、やや特別なので、n>2の場合を扱っている)。n>2として、係数を複素化して、symplectic代数sp(2n,\mathbf{C})のmetaplectic表現は、n変数多項式の環\mathbf{C}[z_1,\cdots,z_n]上に実現できる。Lie環の表現なら、これでいいけど、群の表現を考える時には、適当な内積を入れて、完備化する必要があって、得られるHilbert空間は、調和振動子のBargmann-Fock表現の空間になる。

Goodman&Wallachに従えば、dual pairにおけるsl(2,\mathbf{C})の作用は、
X = -\dfrac{1}{2}(\dfrac{\partial^2}{\partial z_1^2} + \cdots + \dfrac{\partial^2}{\partial z_n^2})
Y = \dfrac{1}{2}(z_1^2 + \cdots + z_n^2)
H = -(z_1 \dfrac{\partial}{\partial z_n} ; \cdots + z_n \dfrac{\partial}{\partial z_n}) + \dfrac{n}{2}
の線形結合になって、[H,X]=2X,[H,Y]=-2Y,[X,Y]=Hを満たす。

r^2=z_1^2+\cdots+z_n^2として、fを、k次の調和多項式とすると、X \cdot f = 0,H \cdot f = -(k + \dfrac{n}{2}) fで、
U_{f} = \bigoplus_{j \geq 0} \mathbf{C} r^{2j} f
は、sl(2,\mathbf{C}の既約表現空間となる。w_j = r^{2j} fとして、\mu = k + \dfrac{n}{2} - 1と置くと
Y \cdot w_{j} = w_{j+1}
X \cdot w_{j} = -j(\mu+j) w_{j-1}
H \cdot w_{j} = -(2j + \mu + 1) w_j
になる。ここでは、Goodman&Wallachの本に合わせて、H,X,Yを取ったけど、この式を、Kostantの論文の式(0.1)と比較すると、ほぼ同じ形をしていることが分かる。

Kostantの記号に合わせるには、f'=-i X,e'=i Y , h'=-Hとすればよく、[h'e']=2e' , [h',f']=-2f' , [e',f']=h'が成り立つ。また、k=0の時、\mu=\nu=\dfrac{n}{2}-1で、これは、回転不変関数のFourier変換から出るHankel変換の次数に等しい。U_{f}上の表現は、次数kが同じなら、どのfを取っても同値なので、sl(2,\mathbf{C})の抽象的な表現空間として、\mathcal{D}_{k+\nu}と書くことにする。

次数kの調和多項式の空間を\mathcal{H}_{k}とすると、こっちは、意外なこともなく、O(n)の既約表現になる。

もう少しちゃんというなら、E_{ij}(i,j)成分のみ1で、それ以外は0の行列単位として、\left( \begin{array}{ll} E_{ij} & 0 \\ 0 & -E_{ji} \end{array} \right) \in sp(2n,\mathbf{R})のmetapletic表現は、z_i \dfrac{\partial}{\partial z_j} + \dfrac{1}{2} \delta_{ij}になる(metaplectic表現を与えるのは難しくないけど略)。これから、特に、h'=-Hは、\left( \begin{array}{ll} I & 0 \\ 0 & -I \end{array} \right)のmetaplectic表現になってることが分かる。

上に書いたdual pairの作り方から、o(n) \subset sp(2n,\mathbf{R})は、z_i \dfrac{\partial}{\partial z_j} - z_j \dfrac{\partial}{\partial z_i}という形で作用することが分かる。これは、(z_1,\cdots,z_n)空間での回転の無限小生成子なので、調和多項式の空間を既約分解すると、\mathcal{H}_{k}が既約になる。

以上から、
\mathbf{C}[z_1,\cdots , z_n] \simeq \displaystyle \bigoplus_{k=0}^{\infty} \mathcal{D}_{k+\nu} \otimes \mathcal{H}_{k}
という分解ができる。

Bargamann-Fock表現の代わりに、標準的な調和振動子の実現で同じ計算をやれば、丁度Hankel変換の作用する空間が\mathcal{D}_{\nu}になってるはず(この表現はmetaplectic表現の部分表現としてみれば、重複度1なので、それ以外の可能性がない)。Fourier変換をHankel変換に帰着させる計算には、量子力学の教科書で、部分波展開と呼ばれている式を使うので、以上の話は、部分波展開の表現論的解釈と見ることもできる。そんなことを確かめても、なんか深遠なことを理解した気分になって楽しいという程度のことで別段新しい何かが出るわけではないけど、19世紀に(おそらく場当たり的に)発見されたいくつかの恒等式が、多少見通しよく把握できるかもしれない。



あんまり関係ないけど、3次元Kepler多様体は、T^{*}\mathbf{R}^6SL(2,\mathbf{R})によるMarsden-Weinstein簡約によって得られる。これは、上に出てきたのと類似のdual pairSp(12,\mathbf{R}) \supset SL(2,\mathbf{R}) \times O(4,2)が背後にある(dual pairの作り方は、さっきと殆ど同じ)。この事実は、GuilleminとSternbergの小冊子

Variations on a Theme by Kepler
https://books.google.com.jm/books?id=bt6VAwAAQBAJ

で解説されている。より一般に、Sp(2(n+3),\mathbf{R}) \supset SL(2,\mathbf{R}) \times O(n+1,2)というdual pairがあって、多分、これも一般化できるんだろう。

低次元では、SU(2,2)SO(4,2)が偶然局所同型で、U(2,2) \subset Sp(8,\mathbf{R})という別の埋め込みが存在する。3次元Kepler問題が、4次元調和振動子に帰着するという話は、こっちの埋め込みが原因

cf)低次元Lie代数のaccidental同型(その3)
https://formalgroup.tumblr.com/post/119177832580/lie-accidental-3
終わりの方にあるsp(4,\mathbf{R})は、ここでsp(8,\mathbf{R})と書いてるのと同じもの。C_n型のLie環を、sp(n)と書く流儀とsp(2n)と書く人がいる。

一般にU(p,q) \subset Sp(2(p+q),\mathbf{R})は、さっきより少し面倒だけど、以下のように実現できる。行列\eta \in Mat(n,\mathbf{R})\eta^2=Iになるものとすると、X+\sqrt{-1}Y \in GL(n,\mathbf{C})に、f(X+\sqrt{-1}Y) = \left( \begin{array}{ll} X & Y \eta \\ -\eta Y & \eta X \eta \end{array} \right) \in GL(2n,\mathbf{R})を対応させると、群の準同型写像になる(但し、X,Y \in GL(n,\mathbf{R}))

ここで、\eta=diag(\pm 1 , \cdots , \pm 1)の形だとして、Z = X+ \sqrt{-1}Y \in GL(n,\mathbf{C})が、Z^{\dagger} \eta Z = \etaだとする(つまり、\etaの対角成分に出る+1/-1の個数をpとqだとすると、Z \in U(p,q)になる)と、
Z^{\dagger} \eta Z = (X^{t} - \sqrt{-1}Y^{t}) \eta (X+\sqrt{-1}Y) = (X^{t} \eta X+ Y^{t} \eta Y) + \sqrt{-1}(X^{t} \eta Y - Y^{t} \eta X) = \eta
なので
X^{t} \eta X+ Y^{t} \eta Y = \eta , X^{t} \eta Y - Y^{t} \eta X = 0
という条件が出る。一方、同じ\etaを使って、f(Z) \in GL(2n,\mathbf{R})を作ると、
f(Z)^{t} \left( \begin{array}{ll} 0 & I_n \\ -I_n & 0 \end{array} \right) f(Z) =\left( \begin{array}{ll} 0 & I_n \\ -I_n & 0 \end{array} \right)
が成り立つので、f(Z) \in Sp(2n,\mathbf{R})が示せる。\eta = I_nの時は、U(n)Sp(2n,\mathbf{R})への標準的な埋め込みになる



1000年後くらいの人類が、まだ滅亡してなくて、17〜20世紀くらいの数学や物理の歴史を総括する時、"当時の人々は、概ね、調和振動子の研究をしていた"とか、まとめられるかもしれない。

21世紀

metaplectic表現は、symplectic群が、相空間T^{*}\mathbf{R}^{n}に"殆ど"推移的に作用してたボーナスとして得られた。Sp(2n,\mathbf{R})が推移的に作用するsymplectic等質空間として、もう一つSiegel上半空間がある。

最近、以下のような論文があるのを知った。

The Siegel upper half space is a Marsden-Weinstein quotient: Symplectic reduction and Gaussian wave packets
https://arxiv.org/abs/1504.03963

The frame bundle picture of Gaussian wave packet dynamics in semiclassical mechanics
https://arxiv.org/abs/1802.04362

詳細をフォローしてないけど、2n次正方行列の空間Mat(2n,\mathbf{R})には自然なsymplectic構造が存在(\mathbf{R}^{2n^2}の余接空間と同型)し、右と左からSp(2n,\mathbf{R}),O(2n)の作用があって、これらはSp(4n^2,\mathbf{R})の部分群をなし、互いに可換になる。そして、O(2n)作用で、Marsden-Weinstein簡約を取ると、Sp(2n,\mathbf{R})が推移的に作用するsymplectic空間が得られるが、これが、Siegel上半平面になるらしい。

Marsden-Weinstein簡約を取るところ以外は、良く知られた(Sp(2n,\mathbf{R}),O(k)) dual pairの特殊ケースになっている。このdual pairについては、

MULTIPLICITY-FREE SPACES AND SCHUR-WEYL-HOWE DUALITY
https://doi.org/10.1142/9789812562500_0007
[PDF] https://citeseerx.ist.psu.edu/viewdoc/download?doi=10.1.1.147.4216&rep=rep1&type=pdf

のLecture12とかに解説がある。


一番簡単な例として、n=1の場合を見ておく。運動量写像T^{*}\mathbf{R}^2 \to o(2)^{*} \simeq \mathbf{R}は、角運動量J : (q_1,q_2,p_1,p_2) \mapsto q_1 p_2 - q_2 p_1で与えられる。そして、Marsden-Wensiten簡約でよく取られるJ^{-1}(0)ではなく、J^{-1}(1)O(2)の適当な部分群で割る。また、J^{-1}(1)へのO(2)作用を見ると、鏡映変換は、この集合を不変に保たないが、回転の方は問題ない(あるいは、同じことであるが、鏡映変換によって角運動量の大きさは、-1倍される)。従って、J^{-1}(1)/SO(2)を考えることになるが、q_1 p_2 - q_2 p_1=1という条件は、\left( \begin{array}{ll} q_1 & q_2 \\ p_1 & p_2 \end{array} \right) \in SL(2,\mathbf{R})ということで、この対応によって、J^{-1}(1)/SO(2)=SL(2,\mathbf{R})/SO(2)となるが、これがSiegel上半平面なのは、よく知られた事実。