物理に於ける代数的なテンソル計算の例

特に新しい話(tensorネットワークとか、そういうの)はない


その1。弾性係数テンソルは、2階の歪テンソルから、2階の応力テンソルへの線形変換である。面倒なので、添字を全部おろしておくとする。$V$を$O(3)$の3次元表現として、弾性係数テンソルは単純にはV \otimes V \otimes V \otimes Vに住んでいて、次元は3^4=81である。$V$の基底$v_1,v_2,v_3$を取って
c = \sum c_{ijkl} v_i \otimes v_j \otimes v_k \otimes v_l \in V \otimes V \otimes V \otimes V
とする時、弾性係数テンソルが満たすべき条件は
c_{ijkl} = c_{jikl}
c_{ijkl} = c_{ijlk}
c_{ijkl} = c_{klij}
である。4階テンソルの空間には、GL(V)の作用と可換な四次対称群の作用があり、この条件は、四次対称群の群環の元でテンソルが消えるという形で書けるので、基底の取り方には依存しない。最初の2つは、(i,j)<->(j,i)の入れ替えと(k,l)<->(l,k)の入れ替えで弾性係数テンソルが不変という条件で、これは、応力テンソルと歪テンソルが対称であることからやってくる条件。言い換えれば、最初の2つの条件は、弾性係数テンソルが実際にはS^2(V) \otimes S^2(V)に住んでいることを言っている。S^2(V)は対称テンソル積空間で、今の場合、次元は6なので、S^2(V) \otimes S^2(V)の次元は36となる。最後の条件は、ポテンシャルエネルギーが存在するというような物理的仮定からやってくるものである。最後の条件によって、弾性係数テンソルS^2(S^2(V))に住んでいるということになる。この次元は、21である。ここまでは、O(3)は全く必要なく、GL(V)だけでいい


多くの物質では、等方性を仮定する。これは、S^2(S^2(V))の中の$O(3)$自明表現に相当する部分を取り出すことに相当する。この次元を計算してみる。これは、sl(2,C)の表現のテンソル積の分解と同じなので、表現論に馴染みがある人には、暗算でできるレベル。まず、
S^2(V) = V_1 \oplus V_5
である。$V_1$及び$V_5$は、$O(3)$の1次元既約表現と5次元既約表現で、どちらも次元のみから同型を除いて一意に決まる。この分解は、体積ひずみと偏差ひずみへの分解などに対応している。で、更にこれのテンソル積を既約分解すると
S^2(V) \otimes S^2(V) = V_1 \oplus V_5 \oplus V_5 \oplus (V_9 \oplus V_7 \oplus V_5 \oplus V_3 \oplus V_1)
のようになる。この段階で、自明表現$V_1$は2つしかない。このことから、等方性を仮定する場合には、弾性係数テンソルに関する3つ目の条件がなくても構わない、ということを意味する。一応
S^2(S^2(V)) = 2 \cdot V_1 \oplus 2 \cdot V_5 \oplus V_9
なので、自明表現は2つとなる。以上から、等方的な弾性係数テンソルの独立な成分は2つであるということが分かる。2つの成分の取り方は色々ある

等方均質材料の弾性率の相関関係
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BC%BE%E6%80%A7%E7%8E%87#.E7.AD.89.E6.96.B9.E5.9D.87.E8.B3.AA.E6.9D.90.E6.96.99.E3.81.AE.E5.BC.BE.E6.80.A7.E7.8E.87.E3.81.AE.E7.9B.B8.E9.96.A2.E9.96.A2.E4.BF.82

粘性係数についても、全く同様の議論により、第一粘性係数と第二粘性係数が存在するけれども、物理的な理由により、通常、第二粘性係数は無視される



その2。リーマン曲率テンソル。弾性係数テンソルと同じく添字が4つある。リーマン幾何なら、群として$SO(n)$や$O(n)$を考えればいいけど、相対論的な状況を意識して、$SO(3,1)$で考えることにする(まぁ、有限次元表現を考えている段階では、殆ど一緒なのだけど)。$V$を$SO(3,1)$の自然表現として(ある一点に於ける接空間と思えばいい)、今回も添字を全部下におろしておく。素朴には、添字が4つあるので、曲率テンソルの住んでいる空間はV \otimes V \otimes V \otimes Vで、次元は4^4=256である。弾性係数テンソルと類似して、添字に関する対称性が存在している
R_{ijkl} = -R_{jikl}
R_{ijkl} = -R_{ijlk}
R_{ijkl} = R_{klij}
弾性係数テンソルの時と同様に考えれば、曲率テンソルS^2(\Lambda^2(V))に住んでいることになる。この次元は、21である。加えて、第一Bianchi恒等式がある
R_{ijkl} + R_{iklj} + R_{iljk} = 0
賢い導出が思いつかなかったので、天下り的に、以下のYoung symmetrizerを導入する
 c = (1 - s_{12})(1 - s_{34})(1 + s_{13})(1 + s_{24}) : V^{\otimes 4} \to V^{\otimes 4}
ここで、$s_{ij}$はi番目の成分とj番目の成分を入れ替える対称群の元。Young symmetrizerは、Young tableauxごとに定義できる表現論の道具の一つ。あからさまに書くと項が16個出てきてめんどくさいが
c(X \otimes Y \otimes Z \otimes W) = X \otimes Y \otimes Z \otimes W - Y \otimes X \otimes Z \otimes W - X \otimes Y \otimes W \otimes Z + Y \otimes X \otimes W \otimes Z + Z \otimes Y \otimes X \otimes W \\ - Y \otimes Z \otimes X \otimes W -  Z \otimes Y \otimes W \otimes X + Y \otimes Z \otimes W \otimes X + X \otimes W \otimes Z \otimes Y - W \otimes X \otimes Z \otimes Y - W \otimes X \otimes Y \otimes Z +\\ X \otimes W \otimes Z \otimes Y + Z \otimes W \otimes X \otimes Y - W \otimes Z \otimes X \otimes Y - Z \otimes W \otimes Y \otimes X + W \otimes Z \otimes Y \otimes X
のようになる(多分)。cの像がリーマン曲率テンソルの条件を全部満たすことは簡単に分かる。また、簡単な計算によって、
c(R) = 12 R
R = \sum_{ijkl} R_{ijkl} v_i \otimes v_j \otimes v_k \otimes v_l
であることが分かる。計算のコツとしては、第一成分を固定したのをひとまとめとして見てやって
R_{ijkl} + R_{ilkj} - R_{ijlk} - R_{iklj} = R_{ijkl} - R_{iljk} + R_{ijkl} + (R_{ijkl} + R_{iljk}) = 3 R_{ijkl}
など。


というわけで、Im(c)がリーマン曲率テンソルの空間(代数的曲率テンソル空間の名前で知られる)であるが、これはGL(V)の表現論から、partition(2,2)に付随する既約表現S_{2,2}(V)と同型であることが分かる。この次元は、dim V=nとするとn^2(n^2-1)/12であることも、次元を計算する公式があるので、分かる。n=2の時は、1次元で、n=4の時は、20次元となる。別の見方をするとGL(V)の表現として
S^2(\Lambda^2(V)) = S_{2,2}(V) \oplus \Lambda^4(V)
のように既約分解するので、第一Bianchi恒等式は、(他の条件が成立している元で)この完全反対称成分が消えることと同値。


4次元に戻って、代数的曲率空間を$SO(3,1)$の表現空間として既約分解する。以下、複素化して有限次元既約表現を非負半整数の組(n,m)で表すことにする。$so(3,1)$は実単純であるが、複素化した$so(4,C)$は2つの$sl(2,C)$の直和であり、$sl(2,C)$のスピンn表現とスピンm表現のテンソル積空間に、$so(4,C)$の有限次元既約表現が一つ作れる。特に、$SO(3,1)$の自然表現$V$(の複素化)はD(1/2,1/2)である。
\Lambda^2(V) = D(1,0) \oplus D(0,1)
\Lambda^2(V) \otimes \Lambda^2(V) = D(2,0) \oplus D(0,2) \oplus D(1,0) \oplus D(0,1) \oplus 2 \cdot D(1,1) \oplus 2 \cdot D(0,0)
はすぐ分かる。ちょっと手を動かすと
S^2(\Lambda^2(V)) = D(2,0) \oplus D(0,2) \oplus D(1,1) \oplus D(0,0) \oplus D(0,0)
になるので、
S_{(2,2)}(V) = D(2,0) \oplus D(0,2) \oplus D(1,1) \oplus D(0,0)
が分かる。最初の2つの成分が、Weylの共形曲率テンソルで、3つ目がtraceless Ricci tensor、最後がスカラー曲率に対応する。複素化して考えているので、D(1,0)+D(0,1)とかD(2,0)+D(0,2)は可約であるけども、real representationとしては既約になる。古典論やリーマン幾何学の範囲では、実既約表現を考える方が自然な気がするけど、量子論まで行くと、この分解はhelicityの正負に対応しているので、複素既約表現を考えるほうが自然に思われる(D(1,0)+D(0,1)の分解は、幾何学的には、Hodge作用素による2-形式の固有分解に対応するが、Lorentz時空の場合はHodge作用素固有値は+i/-iであるので、実空間上での分解はできない)


# 物理的にはどうでもいいことだと思うけど、以上の議論を、多様体上のテンソル場/ベクトル束に持っていくには、適当なG束のassociated bundleを取ればいい。微分形式(完全反対称テンソル場)は、フレーム束とGL(n,R)の自然表現の外積表現からassociated bundleを作り切断を取ったものだった。同様に、正規直交フレーム束と上に出てきた、色々な表現からassociated bundleを作れば、議論は、そのままベクトル束に持っていける。


第一Bianchi恒等式を扱ったら、第二Bianchi恒等式もやらないと不公平である。第二Bianchi恒等式
R_{abcd;e} + R_{abde;c} + R_{abec;d} = 0
という形で、微分を含んでいることを忘れれば、5階のテンソルに対する恒等式のように見える。実際、
(\partial_1 , \cdots ,\partial_n)
はGL(n)の表現空間とみなせるから、代数的曲率空間にVを一個テンソルした空間を考えればいい。次の既約分解
V \otimes S_{2,2}(V) \simeq S_{3,2}(V) \oplus S_{2,2,1}(V)
があるのだけど、この2つ目の既約成分が0になるというのが、第二Bianchi恒等式と同値になる。この場合も、Young symmetrizerがあって
c = (1-s_{12})(1-s_{34}) \rho_{135} (1+ s_{24})
というのを考えるといい(はず)
\rho_{135}( T_{abcde} ) = T_{abcde} + T_{cbade} + T_{ebcda} + T_{abedc} + T_{cbeda} + T_{ebadc}
という1,3,5成分を置換したものを全部足すような対称化演算子。計算は、やや面倒であるけども、見通しはそれほど悪くないはず



おまけ。重力波/重力子を担うのは、D(1,1)なのかD(2,0)+D(0,2)なのかという話。D(1,1)は対称トレースレステンソルで実現でき(勿論、重力場が弱い時の計量の摂動部分として出る)、D(2,0)+D(0,2)はWeylテンソルで実現できる。そもそもの話としては、Poincare代数の離散ヘリシティを持つmassless規約表現空間には、共形代数の作用が定義でき、この共形代数の表現は、振動子表現から作ることができる。この構成は数学的には簡単であって、物理学の怪しい議論が入る余地のないところであるが、標準的な物理に於ける電磁気学や重力理論(一般相対論)との関係が全く明らかではない点が問題となる。


[1] GROUP THEORY OF THE MASSLESS SPIN 2 FIELD AND GRAVITATION
http://link.springer.com/article/10.1007/BF00762448

は1975年の論文であるけど、"The most popular choice for the massless spin 2 field is a symmetric tensor of rank 2, i.e. D = D(1,1)."という記述があり(ちなみに、対称テンソルだとD(1,1)+D(0,0)で、D(1,1)はsymmetric traceless tensorとして実現できるので、微妙に記述が間違っている)、その後、色々な理由で、D(1,1)はダメなので、D(2,0)+D(0,2)を使いますということが書いてある。この時点ではコンセンサスがなかったことが読み取れる。一方、1986年の論文

[2] On solution spaces of massless field equations with arbitrary spin
http://aip.scitation.org/doi/abs/10.1063/1.527037?journalCode=jmp

では、各成分がmassless Klein-Gordon方程式を満たす対称トレースレステンソルの空間から、どのように重力子の状態空間を作るか、ということが書いてある。この構成は、量子電気力学に於けるGupta-Bleuerの構成と類似したものといえる


光子の時は、
Maxwell方程式の表現論(2)Gupta-Bleuler量子化の表現論的側面
http://d.hatena.ne.jp/m-a-o/20151106#p2
で書いた通り、
・各成分がKlein-Gordon方程式の解となってるベクトル(つまりD(1/2,1/2))場から、適当な2つの部分表現の商表現を作ると、一光子の状態空間が得られること(Gupta-Bleuerの構成)
・各成分がKlein-Gordon方程式の解となってる2階の反対称テンソル( D(1,0)+D(0,1) )場の部分表現として、一光子の状態空間が得られること(Maxwell方程式は、この部分表現を定義するための条件として自然にでてくる)
を直接計算で確認した


重力子(現時点で重力子は観測されてないと思うけど、ここでは、単にヘリシティ±2の質量0の粒子を指す)の時は、論文[1][2]から私が読み取れる情報と、光子の時との類似を元に推測すると
・各成分がKlein-Gordon方程式の解となってる対称トレースレステンソル(D(1,1))場から、適当な2つの部分表現(定義は、論文[2]のSec VのDを参照)の商表現を作ると、一重力子の状態空間が得られる
・各成分がKlein-Gordon方程式の解となってるWeylテンソル(D(2,0)+D(0,2))場の部分表現として、一重力子の状態空間が得られ、second Bianchi identityは、この部分表現を定義する条件として得られる(というのが、多分[1]の言ってること。これは、twistor理論から出てくる重力子運動方程式でもあるはず)
という風になっているのだと思う(未確認)。光子の時にやった計算と同じことをやって、この2つの予想が合ってるか(あるいは間違ってるか)確認するのは、難しくないはず


疑問。論文[2]によれば、整数スピンnのmassless粒子の状態空間は、D(n/2,n/2)に値を取る場から類似の構成で得られるらしい。D(n,0)+D(0,n)についても、類似のことが成立するのかは不明。また、n=1,2の時には、D(n/2,n/2)に値を取る場とD(n,0)+D(0,n)に値を取る場の間には、それぞれ関係があった。n=1の時は、外微分で前者から後者を得ることができ、n=2の時は、計量から曲率を構成するのと同じ手順で前者から後者を得ることができると思う。一般のnでも何かあるのだろうけど詳細は分からない。また、massiveな場合は、Bargmann-Wigner方程式が、運動方程式として知られているけども、(Klein-Gordon方程式以外の場合)これらも同様に対称性から(論文[1]の言い方を使えば、ユニタリ条件として)導くことができるのか気になる


よく知らない話。物理を念頭にLorentz計量を考えたけども、Euclid計量の場合も、SO(4)がSO(3)2つの直積に分解するので、有限次元の表現論を同様に考えることができる。特に、Weylテンソルが自己双対成分と反自己双対成分に分かれるという点は共通する。Lorentz計量の場合と違い、この分解は、実表現としての分解になっているので、幾何学的に扱うことができる。微分幾何のことはよく知らないが、Weylテンソルが自己双対であるとか反自己双対である時に、Riemann多様体をSDであるとかASDであると呼ぶことにすると、Euclid型符号を持つ場合、Ricci平坦な単連結ASD4次元多様体は(複素二次元)ハイパーケーラー多様体になるらしい(Sp(1)とSU(2)の同型のおかげで、4次元ではRicci平坦なケーラー多様体としても特徴づけられる)。運動方程式であるところの第二Bianchi恒等式は、リーマン幾何では恒等式なので、表立って重要な働きはしないで、主要な条件はASD条件とRicci平坦性であるが、Ricci-flat Kähler=>ASDが知られているらしいので、Ricci平坦条件が残る。


おまけ2。テンソルとは何の関係もない話。4次元の実線形時空には、Euclid/Lorentz以外に、もう一つ(2,2)符号という選択肢がある(確立した名称がないけど、neutral signatureと呼ぶ)。実Lie環so(2,2)はso(2,1)2つの直和に分解するので、実空間で、SD/ASD成分への分解ができる。この時空の共形群の普遍被覆Spin(3,3)はSL(4,R)と同型である。この3種類の4次元実線形時空は、複素Grassmann多様体Gr(2,4)の部分空間として実現できる。これはtwistor理論では複素Minkowski時空の共形コンパクト化として出てくる。Gr(2,4)の局所アフィン座標として、2行2列の行列$Z$の成分がよく使われる(これは、[Z|I]という形で2x4行列を作ることによってGrassmann多様体上の点を定める)。これは複素座標であるが、この"実部"の取り方を変えることによって、Euclid/Minkowski空間及び、neutral signatureを持つ線形時空が実現できる。例として
Euclid
Z = \left( \begin{array} x_1 + i x_2 & x_3 + i x_4 \\ -x_3 + i x_4 & x_1 - i x_2 \end{array} \right)
Minkowski
Z = \left( \begin{array} x_1 + x_2 & x_3 + i x_4 \\ x_3 - i x_4 & x_1 - x_2 \end{array} \right)
neutral
Z = \left( \begin{array} x_1 & x_2 \\ x_3 & x_4 \end{array} \right)
など。行列式を取ると、時空の"計量"が得られる。Euclid時空の場合は四元数の複素行列表現でもある。各時空の共形代数は、sl(4,C)の異なる非コンパクト実形を与える


何か関係あるのかどうかわからないけど、Gr(2,4)上のGelfandの超幾何微分方程式系の主要な部分をZの座標で書くと
 \left( \frac{\partial^2}{\partial Z_{11} \partial Z_{22}} - \frac{\partial^2}{\partial Z_{12} \partial Z_{21}} \right) F = 0
で、この方程式を、各実線形時空上で考えると、Laplace方程式やmaaless Klein-Gordon方程式、超双曲方程式が得られる。これらの方程式は共形対称性を持つ。 超双曲方程式には、X線変換で解を作ることができるという有名な性質がある。arXiv:0812.3692(The Penrose Transform in Split Signature)によると、X線変換はPenrose変換として理解でき、SL(4,R)の"極小表現"のcohomologicalな実現が得られるらしい(su(2,2)の場合も極小表現は、massless Klein-Gordon方程式のある解空間と見なせた)。この"極小表現"は、小林-Ørstedによって(通常の極小表現を意識して)定義されたもの。初出論文はわからないけど、
Conformal Geometry And Branching Laws For Unitary Representations Attached To Minimal Nilpotent Orbits
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0764444298801158
で定義されている。よく引用されているのは
Analysis on the minimal representation of O(p,q) I. Realization via conformal geometry
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0001870803000124

su(2,2)の場合は古くから知られた表現だったので、色々簡単だったが、sl(4,R)のは、比較的新しい話なこともあって、大分難しい。



※)突然、超幾何微分方程式系が出てくるのは偶然というわけでもないのだと思う。以前からGauss超幾何関数の"対称性"としてsl(4,C)の存在は知られている(個人的な意見としては、対称性があるというだけでは大して重要な情報とは言えないと思う)
Lie Theory and Generalizations of the Hypergeometric Functions
http://epubs.siam.org/doi/abs/10.1137/0125026

また、以下の事実は簡単に確認できる。
g(x_1,x_2,x_3,x_4) = x_1^{c-1} x_2^{-a} x_3^{-b} f(x_1 x_4/x_2 x_3)
という関係のある関数f,gについて、fがGauss超幾何微分方程式
 z(1-z) f''(z) + (c - (1+a+b)z) f'(z) - ab f(z)=0
を満たすことと、gが超双曲方程式
(\partial_1 \partial_4 - \partial_2 \partial_3) g = 0
を満たすことが同値。これも、Gauss超幾何関数を使って書ける超双曲方程式の解があるというだけのことだが、この特殊解をX線変換を使って書こうと思うと、超幾何積分が出てくる(Selected Topics in Integral Geometryという本のChapter2を参照)。このへんのことは状況証拠で、超双曲方程式の対称性とGauss超幾何関数の"対称性"が同じといっても、これらがcompatibleであることも確認しないといけないし、sl(4,C)の非コンパクト実形のうち、sl(4,R)がGauss超幾何関数にとって重要なのかどうかは分からない(超双曲方程式にX線変換があるように、例えばLaplace方程式にはBateman変換があるわけで。。)


Gelfandの超幾何系のアウトラインについては、例えば以下の文献は割と好み
Transformations and contiguity relationsfor Gelfand's hypergeometric functions
http://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/dspace/handle/2261/1588


ほとんど何も知らないけど線形でない話も少し。1993年、C^4上のSL(2,C)反自己双対Yang-Mills方程式(複素時空上の複素ゲージ群を持つASDYM方程式)をPainleve VI方程式に簡約できることが見つかったらしい
Self-duality and the Painleve transcendents
http://iopscience.iop.org/article/10.1088/0951-7715/6/4/004/meta
一方で、Pinleve VI方程式の解で超幾何関数を使って書けるものが知られていたらしいけど、これはSL(2,C) ASDYM方程式に対するWard ansatz solutionに対応するらしい
Painlevé VI, hypergeometric hierarchies and Ward ansätze
http://iopscience.iop.org/article/10.1088/0305-4470/39/39/S17
私はPainleve方程式のことはよく知らないが、Lemma1を見ると、上に書いたような、超双曲方程式とGauss超幾何方程式の関係が出ている。Painleve方程式は、古典Hamilton力学系としての定式化が知られているので、量子化することは自然に思える(Hamiltonianは二次以上の項が入っているし、時間変数も含んでいるので自然ではあるが自明ではない)。量子Painleve方程式については色々研究されているようだけど、どういう表現論を考えればいいのかは謎。