ただの多次元配列は如何にテンソルか

何となく検索してみた結果、世間には
・ただの多次元配列はテンソルじゃない
テンソルは多次元配列と思って問題ない(「問題ない」という言い方は、"厳密に言うと正しくない(不正確だ)けど..."というニュアンスを感じる)
テンソルは多次元配列である
という3種類くらいの意見があるっぽい。


有限の添字集合I={1,...,n}と体$F$に対して$Map(I,F)$は自然にF上のベクトル空間となり、かつ、同様に$J,K$を有限集合とすると、ベクトル空間の同型
Map(I \times J,F) \simeq Map(I,F) \otimes Map(J,F)
Map(I \times J \times K,F) \simeq Map(I,F) \otimes Map(J,F) \otimes Map(K,F)
etc.
があり、これらの同型の左辺はベクトル空間の構造を忘れれば、ただの多次元配列(の集合)になる。テンソル積の普遍性による定義とかだと、存在を証明してやらないといけないけど、この同型の左辺はベクトル空間のテンソル積の存在を証明するのに使える。つまり、n次元ベクトル空間Vの基底を(順序込みで)適当に選べば、VとMap(I,F)の同型が作れる(この同型は、基底の取り方に依存しているのでcanonicalではない)ので、あとは、Map(I × J , F)が、テンソル積の普遍性に関する条件を満たすことを示すという手順。というわけで、多次元配列の集合は、テンソル積ベクトル空間の具体的な構成を与えるし、これをテンソル積の定義と思っても差し支えない。テンソル積は高級な概念でも深遠な概念でもないので、雰囲気で計算してれば、あとのことは、そのうち分かるようになる気がする


ところで、ベクトルはベクトル空間の元であるけど、ベクトル空間のテンソル積はベクトル空間なので、テンソルテンソル積空間の元です、という言い方はおかしなものになる。なので、数学では、テンソルという言葉を単体で使うことは少ない気がする(大体、テンソル積で一単語)。物理の人は、直交群O(n)や一般線形群GL(n)やLorentz群O(3,1)の自然表現をベクトル表現と呼ぶことがあって、この場合テンソルというのは、ベクトル表現(と、その双対表現)の何個かのテンソル積表現空間の元という意味で使われる。ベクトル場・テンソル場に於ける「ベクトル」「テンソル」も同様の(狭い方の)意味で使われている。