スピン3以上のゲージ場(2)曲率の高スピン類似

(参考文献)The unitary representations of the Poincare group in any spacetime dimension
https://arxiv.org/abs/hep-th/0611263


以下では、自然数の分割[n_1,...,n_k]という記号を使う。この時、n_1 >= n_2 >= ... >= n_k > 0となっている。

で、物理の(一部の)人の間では、以下のような表は常識っぽい

GL(n) SO(n)
分割[s] 対称テンソル "ゲージポテンシャル"
分割[s,s] "曲率"の一般化 "共形曲率"の一般化

sは正整数で、classical field theoryなら、実係数で考えるべきで、quantum field theoryの場合は、複素係数で考えるべきなのだろうと思う。特に係数の取り方に依存する話はしないので、GL(n)の列は、対応するYoung symmetrizerの(右からの作用による)像を指しているとする。これは、係数の取り方によらず定義できる。

SO(n)の列は、GL(n)の列のトレースレス成分であると解釈する。トレースを取る(テンソルを縮約する)には、計量を決める必要があり、Euclid的な内積ならSO(n)であるけど、Lorentz的な内積なら、SO(n-1,1)とする必要がある。計量の符号に依存する話はしないので、SO(n-p,p)とか書く方が正確かもしれない。これは複素係数でもちゃんと定まる。こというわけで、表の各項目は、GL(n)の有限次元既約表現や、SO(n)の有限次元表現(既約でないことがある)を指している。Fulton-Harrisの6章とか19.5節も参照

nが3以下の時も、基本的には、同じ考えでいいけど、原則として、nは4以上ということにしておく。また、以下では、GL(n)やSO(n)の分割λに対応する表現(対応するYoung symmetrizerの像に定まる表現)を、λ-表現と呼ぶことにする。


SO(n)の[s]-表現は、ランクsの対称トレースレステンソルの空間であり、整数スピンsの場=ランクsの対称トレースレステンソルの場というのは、物理でも、よく使われている定義。分割[1]の場合は、ただのベクトル表現だから、微分一形式が値を取る空間と思ってもいい

正整数sは、気持ち的には、物理のスピンを表す量だけど、上の表は、特に次元に依存する部分は何もない。一方、スピンの定義は、ポアンカレ群の既約ユニタリ表現の分類に現れるラベルであり、4次元の場合は、誘導表現の構成によって、SO(3)の有限次元既約表現を分類するラベルでもある(フェルミオンのことは考えない)。次元が高い場合は、SO(3)の部分は、SO(n-1)になるので、その有限次元既約表現は、単一の整数でラベルされない。こうして、4次元以外では、スピンという概念が何を指しているかは曖昧である。

しかし、4次元以上の場合でも、SO(n-1)の分割[s]に対応する有限次元表現を考えることはでき、誘導表現として構成される既約ユニタリ表現が、物理学者が、高次元で、スピンsのboson場と見なしているものだと思う。このような場は、Lorentz群SO(n-1,1)のある有限次元表現に値を取る場と見なすことができるが、その有限次元表現は、やはり、同じ分割[s]に対応する有限次元表現を考えればいいようである。これは、ランクsの対称トレースレステンソルの空間になっている。高次元で、物理の人が、masslessなランク2の対称(トレースレス)テンソル場を重力子だとか言ってる背景は、こういうことだと思う

次元があがると、SO(n-1)の既約表現は、もっと多様になり、例えば、分割[2,1]とかに対応する表現なんかも出てくる。


曲率の部分は、GL(n)の[2,2]-表現空間がRiemann曲率テンソルが値を取る空間となっていることの類似である。

cf)物理に於ける代数的なテンソル計算の例
http://d.hatena.ne.jp/m-a-o/20170131#p1

algebraic curvature tensorsと呼ばれていることもあるけど、この用語を使い始めたのが誰なのか分からなかった。最近、GoodmanとWallachの本"Symmetry, Representations, and Invariants"にも、この話が載っているのを見つけた。
Symmetry, Representations, and Invariants (Graduate Texts in Mathematics)
https://www.amazon.co.jp/dp/1441927298
彼らは、the main result in this section(section10.3のこと)を、Besseという人の"Einstein manifolds"(初版は1987年)という本(Chapter 1,section G)から得たと書いており、Google booksで検索した所、このBesseの本で、'the vector spaces of "algebraic cuvature tensors"'という用語が使われていた。というわけで、algebraic curvature tensorsという用語は、少なくとも1987年には存在していたようである。用語ができる前から、このような考え方自体は知られていたと思われる。

元々の幾何学的な動機からすれば、Riemannテンソルは、O(n)-構造の可積分性の障害であって、G-structureの一般論に従って、algebraic cuvature tensorsのベクトル空間はSpencerコホモロジーの言葉で定義できると期待される。のだけど、実際に見てみると、この定義では、Riemannテンソルの代数的性質の一つR_{abcd}=R_{cdab}がどこから来るのか、私には分からなかった…。勿論、これはRiemannテンソルの基本的性質だし、それ以外の代数的性質は、この方法で導くことが出来る。何にせよ、この幾何学的な定義からは、高スピンへの一般化を見つけるのは難しいと思う。

どういうわけか、algebraic cuvature tensorsのベクトル空間=GL(n)の[2,2]-表現空間と見なせる。スピン1の場合、曲率に相当する場は、単なる微分二形式で、ランク2の交代テンソルの空間=GL(n)の[1,1]-表現空間に値を取る。以上のことから、一般の正整数スピンsに対応する"曲率"は、GL(n)の[s,s]-表現空間に値を取る場と類推することができる。特に良い文献とかは見当たらないけど、この定義自体は、以前にも考えている人はいる。こうして、スピン1と2の場合に存在した幾何学的なイメージとは全く異なる方向に目を向けることで、曲率の高スピンへの一般化を考えることができる。

共形曲率は、曲率のトレースレス成分で、スピン2の場合は、Riemannテンソルに対するWeylテンソルに相当する。スピン1の場合は、共形曲率と曲率に違いはない。共形構造の構造群であるCO(n)ではなく、SO(n)を取っているのに、共形曲率という名前を使っていいのか疑問だけど、気にしないことにする。まぁ、曲率/共形曲率のような用語を濫用するより、higher spin Riemann tensor/Weyl tensorと呼んだほうがいいかもしれない。最近(?)は、conformal higher spin theoryというものも調べられていて、higher spinにおける共形曲率も、使われているようである。

SO(n)の列に関しては、Poincare群のユニタリ表現と結びついた根拠がある(Poincare群と結びつくのは、SO(n)というより、Lorentz群SO(n-1,1)というべきだが)。[s]-表現の方は、既に上に書いたけど、[s,s]-表現でも、これは同様。曲率と共形曲率のどちらも、ランク2sのテンソルとして実現できるけど

スピン3以上のゲージ場(1)
http://d.hatena.ne.jp/m-a-o/20170409#p3

で出てきているのは、共形曲率の方。Poincare群の表現を調べる限り、共形曲率があれば十分っぽいように思えるのだけど、一般相対論では、Weylテンソルよりも、Riemannテンソルが重要であると考えられている。しかし、GL(n)の列は、SO(n)の列ほどには、Poincare群の表現論と強く結びついてはいない。GL(n)の列にある表現空間は、SO(n)の列にある空間を含んでいるので、無関係ではないけれども、GL(n)の表現が重要なのは不思議な気がする。



n=3の時、GL(3)の[2,2]-表現は、自明なトレースレス成分しか持たない。つまり、SO(3)の[2,2]-表現は、0次元表現となる。これは、3次元では、Weylテンソルが恒等的に0になるという事実に対応している(3次元に於いて、Riemannテンソルの自由度は6だが、Ricciテンソルもランク2の対称テンソルなので、自由度は6であり、Ricciテンソルが恒等的に0でない限りは、それ以外の自由度が出る余地はない)。Weylテンソルが常に消えることは、3次元重力がtopologicalだと言われる理由らしい


曲率は、ポテンシャルを使って書くことができ、スピン1の場合は、単に
F_{ab} = \partial_a A_{b} - \partial_b A_{a}
で、微分一形式から二形式への外微分とも理解できる。一階の微分演算子は、GL(n)のベクトル表現をなす。物理の人は、運動量空間で見ることを、よくやるけど、その場合は、運動量ベクトルと、ポテンシャルがなすベクトルのテンソル積を取って、既約成分の片割れを取ったものと解釈できる。GL(n)のベクトル表現は、[1]-表現なので、二つの[1]-表現のテンソル積は、対称成分である[2]-表現と反対称成分である[1,1]-表現に分解される。

スピン2の場合は、ポテンシャルの一階微分を取っても、曲率は出ない。しかし、二階微分を取ったものの線型結合で書ける。運動量の二次多項式がなす、GL(n)の[2]-表現と、ポテンシャルが値を取る[2]-表現のテンソル積を取って、直和分解すると、GL(n)の[4]-表現、[3,1]-表現,[2,2]-表現が出るので、最後の[2,2]表現へ射影したものが曲率と見なせる。一応、次元だけ見ておくと、[4]-表現は、n(n+1)(n+2)(n+3)/24,[3,1]-表現は、(n-1)n(n+1)(n+2)/8,[2,2]-表現は、n^2(n^2-1)/12で、足すと、n^2(n+1)^2/4で、これは、[2]-表現の次元の二乗になっている。

一般に、スピンsの場合も同様で、運動量のs次多項式のなすGL(n)の[s]-表現と、スピンsのポテンシャルが値を取る[s]-表現のテンソル積を取って、[s,s]-表現へ射影したものとして、曲率とポテンシャルの関係式が得られる。


ポテンシャルを微分したように、曲率の一階微分たちを、直和分解することを考えると、スピン1の場合は、GL(n)の[1]-表現と[1,1]-表現のテンソル積で、GL(n)の[2,1]-表現と[1,1,1]-表現の直和となる。後者の[1,1,1]-表現への射影は、微分二形式を外微分して、微分三形式を得る操作に対応している。これが、0になるというのが、Maxwell方程式の半分で、Bianchi identityと呼ばれていることもある。残りの半分は、GL(n)の[2,1]-表現の方にいる。これを、SO(n)あるいはSO(n-1,1)へ制限すると、SO(n)の[2,1]-表現と[1]-表現の直和に分解する。こうして出てきたSO(n)の[1]-表現は、微分一形式が値を取る空間と解釈できる。この成分が、電流に等しいというのが、Maxwell方程式の残りの半分になっている。

スピン2の場合、Riemannテンソルを一階微分すると、GL(n)の[3,2]-表現と[2,2,1]-表現部分に分解する。[2,2,1]-表現への射影が0になるという条件は、second Bianchi identityと呼ばれている。スピンsの場合、GL(n)の[s,s]-表現と運動量ベクトルがなす[1]-表現のテンソル積表現を、GL(n)の[s,s,1]-表現へ射影すると、0になるという条件は、スピンsのBianchi identityと呼んでいいだろうと思う。"identity"という名前ではあるけど、別に、一般の場合は、0になるという保証はない


Maxwell方程式について考える。Maxwell方程式なので、SO(n)の代わりに、明示的にSO(n-1,1)と書くことにする。曲率の一階微分は、n^2(n-1)/2個の成分がある。一階微分を取る操作は、SO(n-1,1)の[1,1]-表現に値を取る場から、SO(n-1,1)のn^2(n-1)/2次元表現に値を取る場への(SO(n-1,1)-作用と可換な)線形変換と見なせる。この像が、一般にどうなってるか考える。SO(n-1,1)の[2,1]-表現に落ちる成分は、とりあえず置いておくと
 \partial_{a} F^{ab} = j^b
 \partial _{a} F_{bc} + \partial_{c} F_{ab} + \partial_{b} F_{ca} = t_{abc}
という形になる。jが電流、tが、磁荷と磁荷流に相当する項。Fの方は、成分がn(n-1)/2個あるけど、jとtの成分数は、それぞれ、nとn(n-1)(n-2)/6で、Fを未知数とした場合、方程式の個数と未知数の個数が一致しない。n=4の場合は、電磁場は6成分あり、jとtは4成分ずつある。n=4で、この方程式が解を持つための条件は、電流と磁荷流が、それぞれ連続の式を満たすことで、条件が2つあるから、8-2=6となって、自由度の数が一致する。

(注1)magnetic currentの方は、微分形式で書けば、dF=Jなので、dJ=0が"連続の式"となり、一般のnでは、n(n-1)(n-2)(n-3)/24個の条件が出る。jとtが、連続の式を満たすとして、nが一般の場合は、Maxwell方程式の数がn + n(n-1)(n-2)/6で、連続の式の数はn(n-1)(n-2)(n-3)/24 + 1で、Fの独立な成分数n(n-1)/2だから、(Fの成分数)-{(Maxwell方程式の数)-(連続の式の数)}を計算すると、(n-1)(n-2)(n-3)(n-4)/24となって、nが4より大きい場合は、自由度の数が一致しなくなる。つまり、5次元以上で磁荷がある場合は、通常のMaxwell方程式だけでは不足で、付加的な方程式が必要となる。付加的な方程式は、どこから持ってきてもいいけど、放置してある[2,1]-表現に値を持つ成分も考慮に入れるというのが自然である。勿論、磁気単極子がなければ、一般の次元でも、特に問題は起きない

(注2)電流と磁荷流が値を取る空間は、SO(n-1,1)の表現としては区別がないけど、O(n-1,1)の表現としては異なっていて、例えば、パリティ変換に対する対称性は違っている。磁荷付きのMaxwell方程式を見れば、すぐわかる通り、空間反転を行うと、磁荷の符号は反転し、磁荷流は不変に保たれる。つまり、磁荷は擬スカラーで、磁荷流は軸性ベクトル。特に、磁荷に対するLorentz力は、電荷に対するものと異なってくる。電場と力は極性ベクトルであり、磁場は軸性ベクトルであるから、極性ベクトルである力を得るために、磁荷は磁場と結合し、磁荷流は電場と結合する必要がある。誰が最初に考えたのか知らないけど、以下のWikipediaのページには、そういう式が書いてある。四元力の時間成分は書いてないけど、磁荷流と磁場の内積が付加されると推測される。
Magnetic Monopole
https://en.wikipedia.org/wiki/Magnetic_monopole#In_SI_units

磁荷に対するLorentz力の、きちんとした導出は、電磁場のエネルギー・運動量テンソルの四元発散を取ることで得られる(多分)。例えば
 u = \dfrac{1}{2} \epsilon \mathbf{E}^2 + \dfrac{1}{2 \mu} \mathbf{B}^2
に対して
 \dfrac{\partial u}{\partial t} = \epsilon \mathbf{E} \cdot \dfrac{\partial \mathbf{E}}{\partial t} + \dfrac{1}{\mu}\mathbf{B} \cdot \dfrac{\partial \mathbf{B}}{\partial t}
で、磁荷のあるMaxwell方程式
\dfrac{\partial \mathbf{B}}{\partial t} = -\mu \mathbf{j}_m - \mathrm{rot} \mathbf{E} , \epsilon \dfrac{\partial \mathbf{E}}{\partial t} = \dfrac{1}{\mu} \mathrm{rot} \mathbf{B} - \mathbf{j}_e
を使うと
 \dfrac{\partial u}{\partial t} = \mathbf{E} \cdot ( \dfrac{1}{\mu} \mathrm{rot} \mathbf{B} - \mathbf{j}_e) + \dfrac{1}{\mu} \mathbf{B} \cdot (-\mu \mathbf{j}_m - \mathrm{rot} \mathbf{E}) = -\mathbf{j}_e \cdot \mathbf{E} - \mathbf{j}_m \cdot \mathbf{B} - \mathrm{div}(\mathbf{E} \times \mathbf{H})
なので
\dfrac{\partial u}{\partial t} + \mathrm{div}(\mathbf{E} \times \mathbf{H}) = -\mathbf{j}_e \cdot \mathbf{E} - \mathbf{j}_m \cdot \mathbf{B}
を得るので、四元力の時間成分が分かる。但し、\mathbf{H} = \dfrac{1}{\mu}\mathbf{B}

【補足】Maxwell方程式を、以下のように、4変数多項式係数の6x8行列Pで書いて、d_0,d_1,d_2,d_3に関する四変数多項式環をRとすると、Pは右からの作用βによって、完全列R^8 \to R^6 \to \mathrm{Coker}(\beta) \to 0を定める。
で、自由分解0 \to R^2 \to R^8 \to R^6 \to \mathrm{Coker}(\beta) \to 0を構成できるので、これから、連続の式2本を知ることが出来る。
 \left( \begin{array}{cccccc} d_1  & d_2  & d_3  & 0    & 0    & 0 \\
                           -d_0 & 0    & 0    & 0    & -d_3 & d_2 \\
                           0    & -d_0 & 0    & d_3  & 0    & -d_1 \\
                           0    & 0    & -d_0 & -d_2 & d_1  & 0    \\
                           0    & 0    & 0    & d_1  & d_2  & d_3  \\
                           0    & d_3  & -d_2 & -d_0 & 0    & 0    \\
                           -d_3 & 0    & d_1  &   0  & -d_0 & 0    \\
                           d_2  & -d_1 &  0   &   0  &  0   & -d_0 \\ \end{array} \right) \left( \begin{array}{c} E_1 \\ E_2 \\ E_3 \\ B_1 \\ B_2 \\ B_3 \end{array} \right) = \left( \begin{array}{c} j_0^e \\ j_1^e \\ j_2^e \\ j_3^e \\ j_0^m \\ j_1^m \\ j_2^m \\ j_3^m \end{array} \right)



スピン2の場合のfield equationは、Einstein方程式で、これは、Einsteinテンソルとエネルギー・運動量テンソルが等しいという式。2階の対称テンソルの等式なので、成分数は、n=4では10個ある。n=4では、Riemannテンソルの成分数は、20個あるので、Riemannテンソルを決めるには、もっと方程式が必要となる。これは、Maxwell方程式の時と同様、second Bianchi identityがある。second Bianchi identityの独立な式の数を数えるには、GL(n)の[2,2,1]-表現の次元を、hook length formulaで計算すればいいわけで、これはn^2(n^2-1)(n-2)/24となる。n=4の時は、丁度20に等しい。Maxwell方程式と合わせるなら、Einstein方程式とsecond Bianchi identityをセットで、field equationと思った方がいい。そうすると、n=4の時、Riemannテンソルの成分数が20で、field equationの数が合計30となって、Maxwell方程式の時と同様、方程式の数の方が多くなる。

Maxwell方程式でも、ゲージポテンシャルAから始めて、F=dAとすれば、自明に、dF=0となり、これがMaxwell方程式のBianchi identity部分だった。一般相対論のEinsteinによる定式化では、出発点が、計量なので、ポテンシャルから始めているようなもので、second Bianchi identityは、field equationと思わなくても、単なる恒等式と見えた。そういった設定は忘れて、スピン2のRiemannテンソルに対する(線形な)field equationを考えるなら、second Bianchi identityは、成立しないと考えてみることもできる。これは、丁度、磁気単極子が存在する場合のMaxwell方程式を考えたことに相当する

線形なスピン2のfield equationは、最も一般的には、
R_{ab} - \frac{1}{2} g_{ab}R = T_{ab}
p_{a} R_{bcde} + p_{b}R_{cade} + p_{c}R_{abde} = O_{abcde}
という形になるはず。未知量であるRiemannテンソルの成分数より、方程式の数の方が多いので、解が存在するためには、TとOに条件が付く必要がある。本当は、出てくる条件の数を数えて、勘定が合うことを確認すべきだけど、暗算でやるには辛いので、置いておく。Oが0でないと、Tがdivergence-freeとは限らなくなって困りそうな気もするけど

勿論、ポテンシャルの方で見れば、Einsteinテンソルは、ポテンシャルの二階微分の形になっていて、これは、重力波の計算で、必ず出てくる、線形化したEinstein方程式になる。この場合は、second Bianchi identityは恒等式となり、ポテンシャルの成分数と、Tの成分数は、同じなので、難しいことは、あまりない

物質項がない真空中では、Einsteinテンソルは、恒等的にゼロで、Ricci曲率もスカラー曲率もゼロになる。残る自由度は、Weylテンソルのみになる。表現論的に導けるlinear field equationは、このような状況に相当し、field equationは、linearized Bianchi identityとなる。



同様にして、スピン3のmassless linear field equationについて、考える。スピン3の場合は、色々なno-go theoremがあり、実験的にも見つかってないので、(今の所)ただの数学上の産物でしかない。スピン3の場合も、方程式の片割れは、Bianchi identityから得られるとする。残りの半分は、スピン1の場合も、スピン2の場合も、ポテンシャルの2階微分=カレントという形をしていた。スピン3の場合は、曲率=ポテンシャルの三階微分であることは分かっているので、曲率=カレントの一階微分の形だろうと思われる(スピンsのカレントとは、ランクsの対称テンソル場のこととする。スピン1では、電流で、スピン2では、エネルギー・運動量テンソルに相当する)

曲率は、GL(n)の[3,3]-表現に値を取るが、SOに制限すると、[3,3]-表現と[3,1]-表現と[1,1]-表現が出る。一方、カレントの一階微分たちは、GL(n)の[4]-表現と[3,1]-表現に分解できる。なので、曲率をSOに制限した[3,1]-表現部分と[1,1]-表現部分の線型結合が、カレントの一階微分の[3,1]-表現部分に等しいという形になるのだろう。スピン2の場合、曲率の線型結合の係数を決める手がかりは、divergence-freeになるようにするというものだったので、スピン3の場合も、同様だと思われる。但し、カレントそのものではなく、一階微分の線型結合に等しいという形なので、条件も、多少複雑になるはず。以下の論文には、Einsteinテンソルと同じように作ればいい的なことが書いてあるようだけど、確認してないので、正しいかどうかは知らない

"Geometry" of spin 3 gauge theories
https://eudml.org/doc/76380



【おまけ:massless field equationの系譜】1939年に、FierzとPauliの論文で、スピン2の波動方程式が書かれている。
On relativistic wave equations for particles of arbitrary spin in an electromagnetic field
http://rspa.royalsocietypublishing.org/content/173/953/211
彼らは、特に、masslessとは限ってない。2階対称トレースレステンソルに対して、式(5.1)に波動方程式、式(5.2)に(トレースレスの場合の)調和ゲージ条件が書かれている。質量が0の時は、ソース項のない重力波方程式と同じ形で、大まかには、この波動方程式の解から得られる共形曲率全体が、Poincare群の質量0、スピン2のユニタリ表現空間をなす。彼らの議論は、表現論的なものではなく、Lagrangianを考え、謎の補助スカラー場を使っている。このスカラー場は、調和ゲージ条件を導くための工夫と書かれている。

1939年に、Wignerは、Poincare群の既約ユニタリ表現の分類を与えたが、その仕事を受けて、1948年には、Bargmann-Wigner equationの論文が出ている。
Group Theoretical Discussion of Relativistic Wave Equations
http://www.pnas.org/content/34/5/211
この論文は、表現論的観点からfield equationを導く、最初の議論になった。論文のメインは、massiveな場合の方で、masslessの場合に、特別の注意を払ってはいないようである。またフェルミオンも同等に扱えるように、ポテンシャルをs階のテンソル、曲率を2s階のテンソルとして実現するアプローチとは、少し違うけど、D(s,0)とD(0,s)の直和を、spinor表現のテンソル積表現の部分表現とみなしているので、"曲率"に対する方程式のvariationと言える。

次に、初出は不明であるけど、1960年代に、Penroseが、任意のヘリシティに対するmassless field equationを書いたようである。これは、twistor理論の初期の成果であるけど、"曲率"に対する方程式となっている。また、複素化すると、スカラー以外のmassless粒子は、ヘリシティが正負の成分で、独立な方程式を満たすようにできるので、そのような形で書かれた。これらの結果は、masslessな場合に特有のものであり、表現論的に理解することができる。

1978年になって、Fronsdalは、FierzとPauliの仕事を、任意のmassless bosonに一般化して、Lagrangianを書き、現在、Fronsdal equationと呼ばれている方程式を得たらしい。スピン1の場合でも、得られるのは、ポテンシャルに対する方程式で、電磁場に対するものではない。
Massless fields with integer spin
https://journals.aps.org/prd/abstract/10.1103/PhysRevD.18.3624



【余談】[r,r]-表現は、以下の論文では、conformal Killing tensorが値を取る空間として出ている。
Higher Symmetries of the Laplacian
https://arxiv.org/abs/hep-th/0206233

この時の群は、共形変換群SO(n+1,1)なので、上の曲率の話とは(少なくとも、直接的には)関係していない(計量の符号によって、共形群は変わるけど、今はEuclid的としておく)。SO(n+1,1)の[r,r]-表現は、(n+2)次元に於けるランク2rのテンソルとして実現できるけど、それが、n次元に於けるランクrのconformal Killing tensorと対応するという不思議な話。SO(n+1,1)の[1,1]-表現の次元は、(n+2)(n+1)/2なので、これは、丁度SO(n+1,1)の次元であり、n次元Riemann多様体で許される共形Killingベクトルの最大個数でもある。

論文の主旨は、flat space上のconformal Killing tensorを全てのランクに渡って集めたものには、良い代数構造が定まり、共形代数の普遍展開環のある商環と同型になるということらしい。この代数は、higher spin algebraと呼ばれていて、higher spin field theoryを動機としている。。一般の複素単純Lie環で、higher spin algebra=複素単純Lie環の普遍展開環をJosephイデアルで割った代数という定義をされる場合もあるようである。こっちの2002年の論文では、示唆されるに留まっているが、

The Cartan Product
https://projecteuclid.org/euclid.bbms/1110205624

によれば、(共形代数の場合)、higher spin algebraは、"Cartan algebra"というものの変形量子化と理解できるらしきことが、終わりの方に書いている(Vasilievの論文arXiv:hep-th/0304049の結果のよう)。有限次元複素半単純Lie環をひとつ定めた時、2つの既約表現のCartan productは、2つの既約表現のテンソル積表現のある部分既約表現として定義され、多重Cartan productの直和を取ると結合代数が定まり、Cartan algebraと呼んでいる。sl(n,C)の自然表現のr重Cartan productは、対称テンソル積表現で、so(n,C)の自然表現のr重Cartan productは、ランクrの対称トレースレステンソルの空間である。前者のCartan algebraは、対称代数/多項式環で、後者は、調和多項式の集合に、特殊な積(※)を入れたものとなる

(※)同次調和多項式の積は、調和多項式ではないが、同次多項式であるので、canonical decompositionによって、r^2がかからない成分だけ取り出すと、調和多項式が得られ、これが積を定義する(はず)。canonical decompositionで、r^2=0と置いたものと思えばいい。r^2=1としたものが、球面調和関数のなす代数と見なすことができる

複素化した共形代数so(n+2,C)の[1,1]-表現は随伴表現と同値であるが、そのr重Cartan productは、[r,r]-表現で与えられる。(複素化した)higher spin algebraは、普遍展開環の商として自然にfiltrationが定まっていて、associated graded algebraは、複素化した共形代数so(n+2,C)の随伴表現から得られるCartan algebraと同型になるということらしい(?)。変形量子化には、Poisson構造が必要だけど、Caratan algebraに直接定義する方向では、特に何も書かれていない。Poisson構造が入るのは、随伴表現のCartan algebraとか特殊ケースのみで、一般のCartan algebraにPoisson構造を定める普遍的な方法は、特にないのだろう(多分)。また、以下の論文によれば、A_1を除くABCD型の複素単純Lie環で、普遍展開環のあるクラスの両側イデアルで、商環のassociated graded algebraと随伴表現のCartan algebraが同型になるものが一意に存在するということが書かれている。論文によれば、このイデアルはJosephイデアルと一致するらしい(?)

The Uniqueness of the Joseph Ideal for the Classical Groups
https://arxiv.org/abs/math/0512296

一方で、普遍展開環のJosephイデアルによる商のassociated graded algebraは、極小冪零軌道上の関数環と解釈できる。一般に、複素単純Lie環の冪零軌道上の関数環の"量子化"を考えることができ、数学では、以前から研究されていた。Voganが1990年に、以下の論文で導入したDixmier algebraという概念があり、Definition2.1だけ見ると、座標環の量子化というのは全然見えないけど、Definition2.2を見れば、"orbit datum"の非可換類似であることは見て取れる
Dixmier algebras, sheets, and representations
http://www-math.mit.edu/~dav/DixmierAlgebras.pdf