Airy関数、奴は超幾何四天王の中でも最弱

何とはなしに目にした論文arXiv:1401.0025で、超双曲方程式から、Airyの微分方程式への次元簡約が与えられていた。Gauss超幾何関数について、類似の簡約は、Selected topics in integral geometryという本のChapter2の1.2節が、"John transform and Gauss hypergeometric function"というタイトルで、その中に与えられている。後者の本では、積分変換から、やや天下り的に与えられている。

他のGauss超幾何関数の眷属(Kummer,Hermite-Weber,Bessel)についても、同様の次元簡約が存在するけど、明示的に書かれてるのを見たことがないので、以下で計算した。

超双曲方程式から超幾何型関数への簡約
https://vertexoperator.github.io/2018/11/28/reduction_of_ultrahypebolic_equation.html

特に、難しい議論とかはなくて、面倒な算数をやるだけ。これらの次元簡約は、Gauss超幾何関数を、Grassmann多様体上のGelfand超幾何系として実現する時にも、現れているので新しいものじゃない。Gelfand超幾何系を定義する標準的なやり方は、Z \subset Mat(2,4)を、GL(2)の左作用と、GL(4)の3次元可換部分群Hで割るというもの。代わりに、(確認してないけど)、Mat(2,4)の部分集合上で定義されるGrassmann超幾何系の主要部分を、左からのGL(2)作用で簡約したら、超双曲方程式になるのだろう。で、残りのHの方で、超双曲方程式を簡約する、というのが、上に書いた話になる。GL(2)で割った後に出てくる多様体は、Grassmann多様体Gr(2,\mathbb{C}^4で、これは、4次元だから、これを1次元に簡約するには、4-1=3次元以上の群が必要になる。簡約に使われる群は、GL(4)の極大可換部分群で、全て3次元になっている。

Gelfand超幾何関数の文脈では、可換群Hの無限小作用が書かれてることは少ない気がするけど、同様の群は、MasonとWoodhouseの"Integrability, Self-duality, and Twistor Theory"という本では、Painleve groupsという名前で、無限小作用の形と共に与えられている(本のTable7.2と、その周辺)。Painleve groupsという名前は、SL(2,C)-ASDYM(反自己双対Yang-Mills)方程式を、同様に次元簡約した場合、Painleve方程式が出るので、そう名付けたようである。超幾何関数のことも考えると、いい名前とも思えないし、書籍の出版から20年以上経っても、特に普及した名称とはなってないと思う。

論文としては、

Self-duality and the Painleve transcendents
http://iopscience.iop.org/article/10.1088/0951-7715/6/4/004

があるけど、様々な人が、ばらばらに発見していた次元簡約を、MasonとWoodhouseが、まとめたということっぽい


超双曲方程式は、物理でも、数学でも、それほど注目されることがない。1938年に、Firtz Johnという人が、解を積分変換で書けるという論文を書いたらしく、それに因んで、John's equationと呼ばれることもあるらしい。

John's equation
https://en.wikipedia.org/wiki/John%27s_equation

これは、後に、twistor理論で発見されたPenrose変換と同種のもので、20世紀初頭には、WhittakerとBatemanが、3次元と4次元Laplace方程式に対して、類似の結果を与えていた(全然理解してないけど、3次元Laplace方程式の方は、mini-twistorの文脈で理解できるらしい)。

Selected topics in integral geometryでは、Fritz Johnが与えた積分変換から、超幾何積分を作っている。


超双曲方程式は、ナイーブにはEuclid空間上で定義されていて、一見すると、超幾何関数を連想するものは、何もないけど、その共形対称性は、Spin(3,3) \simeq SL(4,\mathbb{R})で与えられる。この共形対称性から、共形コンパクト化を考えると、(S^2 \times S^2)/\{\pm 1\}であるけど、これは、Grassmann多様体Gr(2,\mathbb{R}^4)と同型なので、Grassmann多様体とは浅くない因縁がある。複素化した無限小共形対称性は、\mathfrak{sl}(4,\mathbb{C})であるけど、これは、Gauss超幾何関数の隣接関係式を与える"対称性"となる。隣接関係式が、"対称性"に見えるという事実の発見者が、誰なのかよく分からないけど、Willard Miller, Jr.という人が、それらしいことを書いている(1970年代初め頃)

Lie Theory and the Lauricella Functions FD
https://aip.scitation.org/doi/abs/10.1063/1.1666152

Lie Theory and the Appell Functions $F_1$
https://epubs.siam.org/doi/abs/10.1137/0504055

Lie Theory and Generalizations of the Hypergeometric Functions
https://epubs.siam.org/doi/10.1137/0125026

Symmetries of Differential Equations. The Hypergeometric and Euler–Darboux Equations
https://epubs.siam.org/doi/10.1137/0504030

Millerは、dynamical symmetry algebraという言葉を使っていて、論文を読むと、(Gauss超幾何の場合)、形式的に、3つの変数を追加していたりする。当時は、その意味は、よく分からなかったのじゃないかと思うけど、現在から見ると、次元簡約で失われた3つの変数を復活させていると理解できる。この変数の意味は、Gelfand超幾何系から始めるよりも、超双曲方程式から始めたほうが、見やすい。


超双曲方程式の解は、Fritz Johnによって、積分変換の形で与えられた(X-ray transformと呼ばれることもある)。これは、massless Klein-Gordon方程式の解を、Penrose変換で書く話と、親戚みたいなものになっている。massless Klein-Gordon方程式の解が、SU(2,2)の極小表現を与えたのと同様の意味で、超双曲方程式の解は、SL(4,\mathbb{R})の"極小表現"を与える。詳細は、以下の論文などが良いと思う

The Penrose Transform in the Split Signature
https://arxiv.org/abs/0812.3692

論文では、split Penrose transformという名称が使われている。Penroseは、3つのタイプのPenrose変換の最後の一つを見つけたので、priorityの観点からは、Penrose変換と呼ぶのはどうかという気もするけど、twistor理論が出るまで、特に注目されずにいた結果なので、仕方ない。

そういうわけで、大雑把には、Gauss超幾何関数<->超双曲方程式<->SL(4,\mathbb{R})の"極小表現"という繋がりがある。一般化の方向性としては、
(1)q-変形を考える
(2)Appell-Lauricella超幾何関数<->???<->SL(n,\mathbb{R})の何らかの既約ユニタリ表現
などが思いつく。もうやってる人がいるかもしれないけど