三角形の合同類のなす空間と有限変形理論

三角形の合同条件と不変式論
http://d.hatena.ne.jp/m-a-o/20130104#p1

みたいなことを昔書いた。ここで書いた考え方だと、三角形が退化した場合(三点が一直線上にある場合とか、一点に集中している場合)の扱いが面倒で、そのへんのことは、詳しく書いてない。が、最近、三角形の合同類のなす空間は、もっと単純な記述ができることに気付いた。


答えとしては、退化してない三角形の合同類の空間は$GL_{+}(2,\mathbf{R})/SO(2)$になる。実際、三角形の一点を原点に持ってきて、残りの二点の座標が、(a,b),(c,d)とすると、非退化な三角形であれば、ad-bc≠0が成立するから、そのような2点の配置の空間は$GL(2,\mathbf{R})$そのものである。一点を原点に置いてるので、これで並進の自由度は消えていて、残りは回転(と鏡映)の自由度で、商空間を考えれば、退化してない三角形の合同類の空間を与える。一般の次元でも、$GL_{+}(n,\mathbf{R})$(行列式が正のn行n列の行列全体)が$n$-単体の合同類の空間に推移的に作用して、固定部分群が$SO(n)$になるので、非退化な$n$-単体の合同類の空間は、$GL_{+}(n,\mathbf{R})/SO(n)$になる。この空間は、正定値対称行列全体と同一視できる($GL_{+}(n,\mathbf{R})$の元が、正定値対称行列と直交行列の積に一意に分解できるというのが、極分解定理)


#$SL(2,\mathbf{R})/SO(2)$は有名なポアンカレの上半平面になる。$GL_{+}(1,\mathbf{R})$は定数倍であるから、単なる拡大・縮小であり、$SO(n)$と合わせて相似な三角形全体を通る。$GL_{+}(2,\mathbf{R})$は$GL_{+}(1,\mathbf{R})$と$SL(2,\mathbf{R})/SO(2)$の直積であるから、$SL(2,\mathbf{R})/SO(2)$は三角形の相似類の空間である。$SL(n,\mathbf{R})/SO(n)$も対称空間の代表的な例である。数学的には、合同類より相似類の方が自然なのかもしれない


並進の自由度をad hocに消しているけど、$n$-単体の一様並進も入れると、$n$-単体の合同類の空間に、アフィン変換群が推移的に作用し、その場合、固定部分群は、合同変換群$Iso(n,\mathbf{R})$となる。回転と鏡映を考えると$GL(n,\mathbf{R})$が作用し、固定部分群は$O(n)$になる。


これを考えたのは、有限要素法の大変形解析のことを考えていた時。有限要素法では物体の変形がアフィン変換(並進の自由度を消せば一般線形変換)で線形補間すると十分よい近似になる微小領域を使う。この微小領域の初期状態(平衡状態)として、三角形や四面体を取ると、線形変換やアフィン変換によって、任意の三角形や四面体が得られる。そして、微小領域の形状のみを考えるなら、合同変換の自由度(剛体並進・剛体回転)は邪魔である。これは、$n$-単体の合同類の空間を考えた時と同じ考え方になっている。結局、(局所的な)有限歪みは、$GL(n,\mathbf{R})/O(n)$で分類され、超弾性体などの場合、弾性エネルギー/ひずみエネルギーは、この空間上の関数とみなすことができる。次元は、n^2-n(n-1)/2=n(n+1)/2で、n=2なら3、n=3なら6で、これは三角形や四面体の辺の数と等しい


※)三角形や四面体の定ひずみ要素を考える場合、平衡状態(要素の歪みエネルギーが最小となる配置)に於ける節点の座標と、変形後の節点の座標から、前者を後者へ変換するアフィン変換が一意に定まり、これの線形変換部分が変形勾配テンソル(テンソルと名前が付いてるけど、単なる行列)となる。変形勾配テンソルは直接、極分解するか、あるいは、転置行列との積を取ることにより、剛体回転成分が除かれ、有限歪みを得ることができる。応力と歪みの構成則があれば、応力成分と歪み成分の積を足し合わせて、弾性エネルギー密度を得られる。こうして得られた弾性エネルギーは、変形後の節点座標の関数と見なすことができるので、変形後の各節点の座標成分で微分すると、節点力が定まる


連続体が非圧縮性条件を満たす場合、局所的には体積が保存するので、$GL_{+}(n,\mathbf{R})$の代わりに$SL(n,\mathbf{R})$を考えることになる。従って、非圧縮性有限歪みの分類空間は、対称空間$SL(n,\mathbf{R})/SO(n)$で記述される(という事実が、何かの役に立つわけではない)