少し前に「行列式が線形変換の不変量である(基底のとり方によらない)ことは、そんなに自明じゃないよね」というようなことを言ってる人がいて、自分ならどう説明するか、ちょっと考えてしまった。


今手元に線形代数の教科書がないけど、標準的な説明は
行列式を行列要素使って直接定義して、det(I)=1と直接計算でdet(AB)=det(A)det(B)を示して(以下略
行列式を多重外積(外積はウェッジ積の方)のトレースとして定義して、トレースと外積が基底によらないことを示す
のどっちかだろうと思う。行列の外積という言い方/書き方は普通しないけど、テンソル積によって外積空間に作用すると考える。視点を変えると、そもそも線形変換の不変量はどれくらいあるか?という問題がある。話を行列要素の多項式で書ける不変量に限定すると(係数体も複素数体とする)、
 \left{ f \in \mathbf{C}[a_{ij}]_{i,j=1,\cdots,n} | \forall P \in GL(n),f(PXP^{-1})=f(X) \right}
はどんな集合かという問題(行列環は中心的単純環で、全ての環自己同型は内部的なので、行列環の環自己同型による不変量を決める問題とも読める)。条件を満たす例は、p_k(X)=tr(X^k)等、沢山あるけど、これは環になっていて、生成元(と、その間の関係式)を決めればいい


Chevalleyの制限定理を知ってれば、この環は
 s_k(X) = tr(\wedge^k X)  (k=1, \cdots , n)
で生成される多項式環で、n次対称群のn変数多項式環への自然な作用に関する不変式環(対称式の全体)と自然に同型だと分かる。これは、線形変換の不変量は、固有値を対称多項式に放り込んで得られるものに限るということの現れ。線形代数の範囲でも、任意の共役類はJordan標準形を代表元に取れること、Jordan標準形の取り方に固有値の入れ替えの不定性が残ってることから直感的に分かる。上の環はgl(n)の普遍展開環の中心とも自然に同型(Harish-Chandra isomorphism)で、線形代数をベクトル空間と線形写像の理論と思う視点は、単なる"言葉と概念"という感じしかしなくて、さほど実りがないと思うけど、表現論・不変式論的に見ると、まだまだ面白い現象がある