Hopf代数と群

こないだ知った基本的な事実
(1)アフィン群スキームの圏と可換Hopf代数の圏は反変同値(Hopf代数は、アフィン代数群上の正則関数環)
(2)formal group law(FGL)のformal group ringは、余可換Hopf代数


SL_q(n)のような"量子群"は何度も見ていたけど、具体的に扱ったことがなくて、(1)と全然結びついてなかったし、量子普遍展開環やYangianは、群の一般化を探そうという動機で見つかったわけでもなければ群の一般化であるという視点は別に役に立たないので、全く気付かなかった


#量子普遍展開環以前に知られていた非可換かつ非余可換なHopf代数の例として、Taft algebraというものがある。これは、非可換かつ非余可換なHopf代数の例を作ろうとして、"Hopf代数論"の中で発見されたらしい



[アフィン群スキーム]
・アフィン代数多様体の圏に於けるgroup objectをアフィン代数群と呼んで、アフィンスキームの圏に於けるgroup objectは、アフィン群スキームと呼ぶのが、一般的っぽい

・アフィンスキームの圏と可換環の圏は反変同値なので、前者のgroup objectは、後者のcogroup objectに対応する。可換k-代数の圏に於けるcogroup objectは、(体k上の)可換Hopf代数。従って、アフィン群スキームと可換Hopf代数は同じもので、アフィン群スキームの関数環がHopf代数を与える

・可換Hopf代数Aに対して、左不変なderivation全体Lie(A)は、Lie環をなす。これは、Lig群の場合の接空間に相当するものと思う
Lie(A) = \{ D \in Der(A,A) | \Delta \circ D = (id \otimes D) \circ \Delta \}

参考:アフィン群スキームのリー環
http://www.math.tsukuba.ac.jp/~amano/lec2011-3/algebraII/algebraII-2011-Infinitesimal2.pdf


簡単な例として、
k[c,s]/(c^2+s^2-1)に余積、余単位、対合を以下で定義できる
 \Delta(c) = c \otimes c - s \otimes s
 \Delta(s) = c \otimes s + s \otimes c
 \epsilon(c)=1 , \epsilon(s)=0
 S(c)=c , S(s)=-s


 \Delta(c)\Delta(c) = c^2 \otimes c^2 + s^2 \otimes s^2 - cs \otimes cs - sc \otimes sc
 \Delta(s)\Delta(s) = c^2 \otimes s^2 + s^2 \otimes c^2 + sc \otimes cs + cs \otimes sc
から
 \Delta(c^2+s^2-1) = \Delta(c)\Delta(c)+\Delta(s)\Delta(s)-\Delta(1) =(c^2+s^2)\otimes(c^2+s^2) - 1 \otimes 1
で、 c~2+s^2-1=0なら、 \Delta(c^2+s^2-1)=0なので、無矛盾な代数射を定める


その他、例えば余単位律は、
 (id \otimes \epsilon)(\Delta(c)) = c \otimes 1 - s \otimes 0 = c \otimes 1
 (id \otimes \epsilon)(\Delta(s)) = c \otimes 0 + s \otimes 1 = s \otimes 1
 (\epsilon \otimes id)(\Delta(c)) = 1 \otimes c - 0 \otimes s = 1 \otimes c
 (\epsilon \otimes id)(\Delta(s)) = 1 \otimes s + 0 \otimes s = 1 \otimes s
などで確認できる。余結合律は
 (id \otimes \Delta)(\Delta(c)) = c \otimes (c\otimes c - s \otimes s) - s \otimes (c \otimes s + s \otimes c)
 (\Delta \otimes id)(\Delta(c)) = (c \otimes c - s \otimes s) \otimes c - (c \otimes s + s \otimes c) \otimes s
etc.


余積は、三角関数の加法定理に対応していて、対応するアフィン代数群の可換性によって、このHopf代数は余可換になっている。複素数体上では、
c^2+s^2-1=(c+ \sqrt{-1}s)(c-\sqrt{-1}s)-1
によって、k[t,t^{-1}]への環同型が作れる。これは、代数群GL(1,k)の正則関数環で、余可換Hopf代数になっていて、Hopf代数としての同型になる



[formal group law]
・formal groupと言うと、formal schemeの圏に於けるgroup objectを指すことが多い気がする(けど、そもそも、これらの対象が話題になることは少ない気がする)。FGLは、smoothなformal groupと同じらしい


標数0の体上では、有限次元Lie代数と有限次元FGLとある種の余可換Hopf代数(Milnor-Mooreの定理では、graded connected cocommutative Hopf algebraという特徴づけがされている)には、1:1対応がある。直接の対応は、以下のように具体的に構成できる
Lie環->FGL: BCH公式
FGL->Lie代数: FGLの二次の項
Lie環->余可換Hopf代数: 普遍展開環
余可換Hopf代数->Lie代数: 余可換Hopf代数のprimitive elements
FGL->余可換Hopf代数: formal group ring
余可換Hopf代数->FGL: 適当な条件を満たすよい基底がある場合は、その基底に関する構造定数からFGLが得られる


・余可換Hopf代数には、有限群や離散群の群環、可換アフィン代数群の座標環なども含まれるので、大分範囲が広いし、FGLやLie環から得られるとは限らない


formal group ringの定義は、面倒なので、一次元FGLの場合に限定すると、FGL Fが
F(x,y)=\sum_{i,j} a_{ij}x^i y^j
という形で定義される時、
 F(x,y)^k = \sum_{i,j} a_{ij}^{(k)} x^i y^j
として、無限個の生成元と関係式
 h_i \cdot h_j = \sum_{k} a_{ij}^{(k)} h_k
で定義される環が、formal group ringの定義。まず、$h_0$が単位元と同一視される。また、F(x,y)は、定数項を含まないので、全ての関係式で、右辺は有限和となる。余積と余単位と対合は、それぞれ
 \Delta(h_n) = \sum h_i \otimes h_{n-i}
 \epsilon(h_0)=1 , \epsilon(h_i)=0
 S(h_n)=(-1)^n h_n
で定義される。h_1がprimitive elementで、かつ、この代数がh_1によって生成されることは、すぐ分かる



[Hopf代数と関手]
特に何か役に立つのか分からないけど、面白い話として、以下のような特徴付けが存在する(証明は、米田の補題とかから)
・可換k-代数の圏から群の圏への表現可能関手は、可換Hopf代数と対応する
・余可換k-代数の圏から群の圏への表現可能反変関手は、余可換Hopf代数と対応する


直感的には、k上のアフィン代数群は、アフィン代数多様体で、群作用も代数的に書けるものなので、多様体の定義方程式と群作用は、任意のk-代数に拡張できるということから、前者に至る。


参考:
アフィン群スキームと可換 Hopf 代数との対応
http://www.math.tsukuba.ac.jp/~amano/lec2009-3/s-algebraII/s-algebraII-2009-affine_group_scheme.pdf

Hopf Algebras, Algebraic, Formal, and Quantum Groups(Chapter2)
http://www.mathematik.uni-muenchen.de/~pareigis/Vorlesungen/98SS/Quantum_Groups/LN2_4.PDF