Noetherの定理の成立条件

Noetherの定理は、対称性と保存量が対応するという物理屋にとっては、よく知られた定理で、量子系でも古典系でも成立する。あまり注意されないことだけれども、Symplectic多様体のNoetherの定理の成立条件をよく見ると、第一de Rhamコホモロジー群が消えるという条件がついている。

対称性というのは、ハミルトニアンを不変にするような時間発展で、この時間発展を微分すると、ベクトル場が得られる。あるいは、物理量に作用する微分といってもよい。このベクトル場をハミルトニアンに作用させると0になる。逆に、ベクトル場から大域的な時間発展は微分方程式を解けば得られる。これを無限小対称性と呼ぶのは適切。保存量から対称性が、どのように得られるかはLiouville方程式が教えてくれる。保存量から無限小対称性を得るのは、単にPoisson括弧から、

でいい。これは、ハミルトニアンベクトル場とか呼ばれる。というわけで、任意のベクトル場はハミルトニアンベクトル場になるというのが、Noetherの定理の必要条件になる。で、この差は第一de Rhamコホモロジー群で測られる


量子系の場合はどうなるのか、というのは書いてあるのを見たことがない。古典系では、物理量全体の代数はPoisson代数と思えばいい。量子系では、適当な非可換環になる(作用素環方面で、*-代数とか$C^{*}$代数とか出てくることもあるけど、強すぎる仮定だと思う)

量子系でも流れは大体同じで、保存量から対称性を与える方法はHeisenberg方程式が教えてくれる。無限小対称性は

のように交換子積で与えられる。これは、古典系と同様に、微分(derivation)を定める。この形で与えられる微分を内部微分(inner derivation)と呼ぶ。というわけで、再び、derivationの全体とinner derivationの差を測ればよい。よく知られている通り、これは第一Hochschildコホモロジーで測られる(証明は、Hochschildコホモロジーの定義そのもの)

ということで、量子系では一次のHochschildコホモロジー群がNoetherの定理の障害を与えると言える


具体的な非可換環で、例えば
・有限次元行列環
・半単純Lie環の普遍展開環
・Weyl代数
などでは、第一Hochschildコホモロジーは消える。


Noetherの定理が成立しないような系を、実際に物理的に作れるのかどうかとか、作れたらどうなのかとかは、よく分からない。とりあえず、理論的には、こういうこともある


全然関係ないけど、ウムラウトoの代わりにoeを使う表記で、Noether,Goedelというのは、たまに見かけるけど、SchroedingerとかMartin-Loefというのは、あまり見かけないのは何故なんだろう