経験的によく知られている通り、加齢に伴って殆んど全ての組織の殆んどの機能が多かれ少なかれ低下する。内分泌機能の低下によって、全身の細胞の増殖速度が低下し新陳代謝が低下すると考えられるし、コラーゲン合成能の低下によって皺ができる一因となる。組織の機能低下は、細胞数の減少と組織を形成する個々の細胞自体の機能低下の両方に由来すると考えられている。


細胞数は、70歳では大体最盛期の2/3くらいになると言われる。細胞数の減少は増殖速度が減少速度を下回るということで、ハッキリした原因は分からないけど、減少速度が概ね一定であれば、単純に増殖速度の低下のせいかもしれない。増殖速度の低下は、各種成長因子の分泌量の低下=内分泌系の老化のせいかもしれない。これだけだと、老化は内分泌系の老化のせいということになって、何も解決してないけれども。


細胞の機能低下は、全ての細胞が一律に衰えていくというよりは、一部の細胞が"機能不全"に陥っていくというのが今のところ正しいと思われているらしい。但し加齢によって増殖因子など"環境要因"も変化するので、それに伴い細胞の機能が変化・低下する場合もある。例えば、骨格筋幹細胞は加齢に伴って筋細胞へ分化しがたくなるが、若い骨格筋幹細胞の投与・共培養によって筋細胞への分化能を取り戻すことから、骨格筋幹細胞が分泌する何らかの因子が加齢に伴う機能変化に影響していると予想されている。一部の組織では、加齢に伴って、オンコサイトと呼ばれるミトコンドリアの増加した細胞が観察されるようになるらしい。オンコサイトは、組織の機能低下の一因であると思われる。


また、過度のストレスによって、細胞老化と呼ばれる、細胞が不可逆的に分裂を停止した状態に移行することも発見されていて、最近色々と調べられている。老化細胞も加齢に伴って増加することが観察されている。遺伝子組み換えマウスでは老化細胞の除去によって老化が遅れるという報告もされている
http://www.natureasia.com/japan/nature/updates/index.php?i=85869
一般には、細胞老化が固体の老化にどの程度寄与しているかは判然としないけれど、最近は細胞老化について盛んに調べられるようになっている


細胞老化は、一部は、有名なテロメアの短縮に伴って引き起こされるけれども、発癌の危険性のあるストレス(各種毒物、酸化ストレスや放射線etc.)によっても誘導される。また、老化細胞自体が一般的に炎症性サイトカイン等を分泌するSASPと呼ばれる現象を起こして、これが更に周辺組織の細胞老化・癌化を引き起こすらしい。加齢に伴って、癌リスクが増加することはよく知られているけれども、この原因の一端は、老化細胞の蓄積にあるのかもしれない。癌細胞の周辺では老化細胞が観察されやすいことも知られている模様。


加齢に伴って起こる各組織の慢性炎症が、加齢により増加する疾患(心不全動脈硬化)と関連すると考えられているけれども、SASPの存在は、慢性炎症と細胞老化の関連性を示唆しているとも考えられる。
『血管内皮細胞での炎症反応を抑制することにより、マウスの老化を遅らせ寿命を伸ばすことに成功』
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2012/03/press20120229-01.html
慢性炎症とがんとの関係
http://www.natureasia.com/japan/nature/ad-focus/100909.php


そんなわけで、癌と老化と炎症には、割と密接な関係があるらしい。タバコ・紫外線・糖尿病・睡眠不足などが見た目の老化に与える影響は経験則としてはよく知られているけれども、これらは癌リスクをあげるという報告もされている(糖尿病については議論が分かれているようであるし、紫外線はビタミンD合成誘導を通して皮膚癌以外の癌リスクはむしろ低減するらしいけれど)。炎症関連遺伝子のうち、COX2阻害剤としてはアスピリン、TNF-α産生阻害剤としてはカフェインがよく知られていて、抗癌作用も報告されている。今のところ、これらに抗老化作用があるという明確な報告はない。


結論とかは特にないけど、意外と今世紀中くらいには、老化とそれに関連した多くの疾患が克服されるのかもしれない