Lorentz対称性が、正しい対称性のある変形の極限じゃないか(Galilei対称性が光速度∞の極限で出るように)という妄想は、多くの人が一度や二度は考えてみることだと思うけど、実際そういう可能性はないんだろうか


可能性の一つとして、de Sitter/anti-de Sitter対称性が考えられる。この場合、(擬)Riemann幾何では一般相対論はできないので、Cartan幾何学を使うことになるけど、このような重力理論の作り方は、現在では大体理解されてると言えると思う。ただ、この群の表現の構造は、Poincare群のと大きく変わってしまうので、量子論的に、あまり都合がよくなさそうな気がする(de Sitter/anti-de Sitter群の表現論は、既に調べられているようだけど、わたしは全然知らない)


もうひとつの変形の方向として、非余可換変形がある。量子群の表現の構造は、q->1の場合と比べて、coherence lawsしか変わらないことが可能。半単純でない場合、変形の存在も方向の一意性も一般には保証されてないと思うけど、Poincare代数に対しては、κ-Poincare代数というものが知られている。それでまず、幾何学ができるのかという問題はあるけど、別に量子論ができればいいので、対応する古典論がなかったとしても、気に病む必要はない。coherence lawsが変わることの帰結として、一つには、対称性が非余可換だと、一般に、スピン統計性定理は破れると思う(これは、まぁ例えばanyonが分数統計を持つのと同じ理由だけど、ちゃんとした証明をするには、どうすればいいやら)。それから、CPT定理の成立要件は、Lorentz不変な局所場の理論であったけども、CPT対称性は、どうなってしまうのか、よく分からない


あと、Klein-Gordon方程式は、Poincare代数のCasimir operatorなので、それも変形を受けるのが自然。変形されたKlein-Gordon方程式やDirac方程式について、1990年代以降、とりあえず考えてみましたっていう論文が大量に出ている。
The Dirac-Coulomb Problem for the $κ$-Poincare Quantum Group
http://arxiv.org/abs/hep-th/9310173

Free q-Deformed Relativistic Wave Equations by Representation Theory
http://arxiv.org/abs/hep-th/0111172

$κ$-deformed Dirac Equation
http://arxiv.org/abs/0910.5778
最初と最後の論文は、変形されたDirac方程式を解いて、水素原子のスペクトルとの比較から、変形パラメータの大きさを見積もっていて、面白い。いずれの場合も、変形パラメータの上限は、Planck長より10桁〜20桁ほど大きいという結果らしい(つまり、変形パラメータがPlanck長程度に小さいと、現在の実験技術では、検出が難しいだろうということ)


ここ10年ちょっとの間に、Lorentz violationやCPT violationを検出しようという動きが盛んに行われている(spin-statistics violationというのは、あんまり聞いたことがない)。Lorentz violationは、GZK限界がないっぽいということから、Lorentz対称性破れてるんじゃね?という流れらしい。CPT violationは、どっから来たのか、よく分からないけど、CPT定理の前提として、Lorentz不変性があるので、(局所性を仮定するなら)CPT violationは、Lorentz violationを意味する
CPT Violation Implies Violation of Lorentz Invariance
http://arxiv.org/abs/hep-ph/0201258


Lorentz violationについて、大体は、自発的対称性の破れを想像しているらしいけど、こういうことが起こってると面白いなぁと思う(妄想