食事回数の栄養学

食事回数について、一日三食がいいとか一日一食がいいとか色んな話があるらしい。食事くらい身近な話になると、自分の経験とかから色んなことを言う人がいる


「朝・昼・晩」以上食事する、理想の食事回数 - NAVERまとめ
http://matome.naver.jp/odai/2135909068209097701

なんだかんだ言って、結局一日何食が健康にいいの? - NAVAERまとめ
http://matome.naver.jp/odai/2136040045722909401


現在の日本では、一日三食の人が一番多いっぽいが、Wikipediaの"食べる回数"
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A0%84%E9%A4%8A%E5%AD%A6#.E9.A3.9F.E3.81.B9.E3.82.8B.E5.9B.9E.E6.95.B0
によると、『日本では20世紀前半に、国立栄養研究所での栄養学的な研究により1日3回と決定された』『矩は、ラットやヒトでの研究によって1日の栄養摂取量を1日3食で3等分で食べることがもっともいいと結論し、これを毎回食完全と呼び、食事の摂取として望ましいとされる』とか書いてあるのだけど、出典が聞いたことない出版社の怪しい本のみなので、正誤の判断のしようもない。


まぁ、とりあえず
佐伯矩
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BD%90%E4%BC%AF%E7%9F%A9
という人が昔いて、日本における1日3食の言いだしっぺのようである。



A controlled trial of reduced meal frequency without caloric restriction in healthy, normal-weight, middle-aged adults
http://ajcn.nutrition.org/content/85/4/981.full
では、健康で標準的な体重の中年(40〜50歳)を対象に、同一カロリー・同一栄養の食事を一日3回に分けて摂取する群と1回で摂取する群に分けて、半年後の変化を調べている。一日一回の食事は、early eveningに摂ったと書いてある。どうでもいいけど、一食で三食分食べるのは辛そうだ。。


#これは2007年の論文ではあるけれども、Abstractには"A diet with less meal frequency can improve the health and extend the lifespan of laboratory animals, but its effect on humans has never been tested. "とあり、Introductionには、"the influence of meal frequency on health has not been established"とはっきり書いてあって、現在でも状況が大きく変わったとは思われないので、食事回数が多い方が健康的だという人も、少ない方が健康的だという人(あるいは三食が健康と言う人)も、あんまり根拠なく言ってるのだと思っておいてよさげ(ただ動物実験のレベルでは、食事は頻繁でない方が健康的で長寿であることを示唆しているようではある)


ここでの主要な結果は、大体以下の通り
・一日一食群では、体重の若干の減少(2kg弱)と体脂肪の減少が見られた。除脂肪体重や水分量は一日三食群と大きな差はない(TABLE3)
・一日一食群では、強い空腹感がある
・一日一食群では、コルチゾール値の大幅な減少が見られる(一日三食群と平均値を比較すると、約半分,TABLE4)
・一日一食群では、血圧の上昇が見られ、総コレステロール・LDLコレステロールHDLコレステロールも上昇している(TABLE3,4)


血圧や総コレステロール・LDLコレステロールなどの上昇は、心疾患の危険因子とみなされているものではある。とはいえ、例えば、LDL-Cは、一食群では216.5±5.3 、三食群では191.0±5.3となっており、概ね問題ないレベルに留まっている。コルチゾール値の大幅な低下を、どう見るかは難しい。一般には、コルチゾールは、加齢に伴って上昇し、心臓病のリスクをあげるとされる。ただこれはコルチゾールの血圧上昇作用に由来するとも考えられていて、そうすると、一日一食群では、コルチゾール値が低下しているにも関わらず血圧は上昇しているので、今の場合特に心疾患に対して有益な効果ではないという可能性もある。また、体脂肪率も心臓病のリスクと関連していると言われている。トータルで見ると、心臓病のリスクがどうなるのかということはよく分からない。但し、一日一食群では、強い空腹感があるということなので、誘惑に負けると過食に陥るリスクはあると思われる。体重への影響は劇的な差ではないので、単純に体重を減らすという目的だけ考えるなら、食べる量をコントロールできるかどうかの方が重要そうな気もする


冒頭のNAVERまとめにある都市伝説(?)では、
・食事の間隔をあけすぎると、糖分の吸収が良くなり、脂肪が付きやすくなります
・食事回数を小分けすれば一回の食事量を少なくすることができるので、消化がよくなり体脂肪として蓄積されにくくなるのです
・"一日一食の空腹ダイエットを始めてからおおむね一週間ぐらいたつと、体臭をほとんど感じなくなるレベルまで軽減されるケースが多い"(これは、血中コレステロールも下がるためです。皮脂の分泌量が減ってくるとのこと)
etc.とあるけど、割と真逆である。


#上調査は、40歳以上の男女に対して行われていることには留意する必要がある。特に10歳以下の幼児や成長期にある10代に対しては、成長を阻害するなど全然違う効果が出る可能性もある。また、標準体重で健康な人々が対象であるので、例えば肥満者も同じような反応を示すとは限らない(例えば、肥満者では、元々、血圧や総コレステロール値・LDLコレステロール値が高い傾向にあり、単純にこれが更に上昇するのかどうか保証はないと思う)


食事回数の少ない群で、総コレステロールやLDLコレステロールの増加が見られるという報告は以前にもされている。例えば
Frequency of eating and concentrations of serum cholesterol in the Norfolk population of the European prospective investigation into cancer (EPIC-Norfolk): cross sectional study
http://www.bmj.com/content/323/7324/1286.1
では、45~75歳の男女を対象に調査を行っている



健康や寿命に対する直接的な影響を見るのは、より長期的な調査が必要なので難しいし、動物実験でも、あまり多くのことは調べられていないよう
Intermittent fasting dissociates beneficial effects of dietary restriction on glucose metabolism and neuronal resistance to injury from calorie intake.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12724520
では、マウスに対して、intermittent fasting(確定した訳語が分からないが、間隔をあけた断食。ここでは一日おき)を行ったところ、寿命の延長が確認できたとある。生化学的には、60%の食事制限を行った時以上に、血糖値・IGF-1レベルの低下が見られ、脳神経は、興奮毒性ストレスに対する抵抗性を高めたとある(カロリー制限による寿命延長効果はマウスでは広く確認されている)。食事制限群とintermittent fasting群で異なる影響が出ているものとして、β-ヒドロキシ酪酸値は食事制限群で減少し、intermittent fasting群で増加している。β-ヒドロキシ酪酸脂肪酸のβ酸化によって生じたものであるとすると、これは、人間で食事間隔を空けた方が脂肪燃焼が亢進するという上の結果と整合的ではある。


#マウスのカロリー制限(Calorie restriction, CR)によって、β-ヒドロキシ酪酸は増えるという結果もあった気がするけど、ここでは減少しているらしい

#以下のプレスリリースでは、intermittent fastingに『断続的飢餓』という訳語をあてている(ちなみに、線虫では、断続的飢餓によって約50%寿命が延長すると書いてある)
断続的飢餓による寿命延長の鍵を握る遺伝子を発見
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news6/2008/081215_1.htm

Signalling through RHEB-1 mediates intermittent fasting-induced longevity in C. elegans
http://www.nature.com/nature/journal/v457/n7230/full/nature07583.html


全体としては、このテーマについて調べている人そのものが少ないという印象で、現時点で明確な結論を出すのは難しいように思う。また、実際に一日一食とか実践してる人は、一回で三食分食べてるわけでなく、トータルの食事量そのものも少ないことが多いのじゃないかと思う。なので、食事間隔を空けることによる影響とCRの影響の両方の効果(何か効果があるとしてだが。。)が見えている可能性が高く、上の実験の結果を、そのまま敷衍できるとは限らない。少なくとも、トータルの食事量が維持されなければ、体脂肪だけでなく除脂肪体重も減少するはず(それがよいか悪いかは、その人が何を目指すかに依ると思うけど)


#CRについても、人間に対する影響は確定してないことの方が多い(サルでは、寿命延長効果があったという報告となかったという報告がある)。ただ、人間を含むいくつかの高等生物で共通して、CRや飢餓状態で、記憶力や学習能力の向上が見られるという話はある
Caloric restriction improves memory in elderly humans
http://www.pnas.org/content/early/2009/01/26/0808587106.abstract

Fasting launches CRTC to facilitate long-term memory formation in Drosophila.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23349290
ショウジョウバエにおいて空腹な状態はCRTCを活性化させ長期記憶の形成を促進する
http://first.lifesciencedb.jp/archives/6502

A role for neuronal cAMP responsive-element binding (CREB)-1 in brain responses to calorie restriction
http://www.pnas.org/content/early/2011/12/20/1109237109.abstract


人間については、平均〜やや肥満の高齢者に対しての実験なので、どこまで適用範囲を広げられるのかは不明。元々肥満で、記憶力などの低下が見られるという報告は、子供を含めて色々あるようである(より極端な認知症についても、肥満がそのリスクを高めるということは、よく言われている)ので、積極的な増強効果があったというよりこれが改善されただけなのではないかという解釈らしい。

参考)Impact of metabolic syndrome on cognition and brain: a selected review of the literature
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22895667

参考)抗老化・寿命延長におけるカロリー制限の役割
http://stu.isc.chubu.ac.jp/bio/public/ann_rep_res_inst_biol_funct/annual-report_v10_2010/pdf/005.pdf
は2010年の総説




[おまけ]
あの土9ドラマ主演女優もハマっている!? 1日9食ダイエット
http://www.excite.co.jp/News/woman_clm/20121004/Gowmagazine_00002378.html

というニュースが2012年10月に出ていて、
『調査を行ったのはイギリスの医学研究局人間栄養学研究所。研究者らはイギリス、日本、中国、米国人2,000人以上の食生活を比較して調査を行いました。同じカロリーを摂取しているひとでも、1日6食以上を食べるひとと6食未満の人では、6食以上食べるひとのほうがヤセているということが判明。

研究者らは、1日に何食食べるのが一番効果的かを調査するため、被験者らをいくつかのグループにわけて3〜9食の食事を摂ってもらいました。被験者の血圧、脂肪酸量、インスリンレベルなどを計測した結果、1日9食の食事が最もヤセる食事スタイルだということが明らかに!

研究者のひとりであるスーザン・ジェブ氏はその理由を「食事を9食に分散して摂ることにより、1度の食事量が少なくなり、1日3食で同じカロリーや量を食べるよりも太りにくくなります。9食食べるひとのほうが代謝が高く、エネルギーの消費が早いためです」と述べています。』
と書いてあるけど、探してみても、該当する論文らしきものは見つからなかった。


一応、MRC Human Nutrition Research unitというところに、Susan Jebbという人物は実在しているっぽい
Dr Susan Jebb OBE
http://www.mrc-hnr.cam.ac.uk/about-us/people/dr-susan-jebb
元ネタは海外のサイトらしい(nine meal a dayでぐぐると、沢山出てくる)けど、日付的にオリジナルらしき記事を読むと、"食事頻度が多い方が、血圧やコレステロールを下げ、体重を減らすのにも役立つかもしれない"とだけあって、脂肪酸量、インスリンレベルとかは言及がない。食事頻度が多い方が、血圧やコレステロールが低い傾向にあることは、他の調査でも確認されてることではあるが、事実であるなら、どういう実験が行われて、何が結果として出たのか正確に知りたい