エルゴード仮説からミクロカノニカル分布を導出してる教科書も一冊くらいあるだろうと本屋で片っ端から立ち読みしたが、一冊もなかった。結構簡単に出る(3行でまとめると「平衡状態の分布関数は保存量なので、その等位集合は時間発展で不変」「エルゴード性があると時間発展で不変な集合は測度0か測度1」「よって、全ての保存量は等エネルギー面上一定」)のだけど、どこで知ったんだろう。ところで、立ち読みした中で面白かったのは、ランダウ・リフシッツの教科書に於けるミクロカノニカル分布の導出。エルゴード仮説も等重率もなし(古典統計力学に於いて、エルゴード仮説を認めないとミクロカノニカル分布は真の分布じゃないよという注釈は書いてある。量子統計でも一般には真の分布にならないと書いてあるものの、等重率などについては記述なし。当時は等重率ってなかったのか)。3行でまとめると、以下のような論法(以下は古典統計力学の場合。量子統計でも同じ議論)。

独立な系の合成系の分布関数は、個々の系の分布関数の積で書けるので、分布関数の対数は相加的。
平衡状態の分布関数は保存量だが、どんな系でも保存する物理量はエネルギーのみなので、分布関数はエネルギーの関数。
エネルギーの相加性から、分布関数の対数関数はエネルギーの一次関数で書ける;ln(ρ)=a+bE

これだけの議論では、bの正負も物理的意味も明らかではないけど、ほとんどカノニカル分布が出る。この中で若干インチキなのは、2行目なのだけど、個人的には、今まで見た中では、最も許容しやすいインチキだと思う。


#上の話は若干省略気味(というか3行に収めるために改変したもの)で、教科書だと、一般にはエネルギーと運動量と角運動量の保存量があって、相加性から、こいつらの一次関数で書けないといけないけど、外部と相互作用しない静止した箱を考えれば、エネルギーのみの一次関数と考えれる、という論法になってる。まあでも、2行目はどうやっても完全な正当化は無理なので、比較的どーでもいいと思う。最後の相加性に基づく議論以外は
http://d.hatena.ne.jp/m-a-o/20110202#p1
の追記3で書いた話と同じ。

#理想気体のように粒子間相互作用がないか弱い場合は、エネルギーを相加的としてよいけど、そうでない場合どうなるのかは謎

#上の議論の後、bをブラックボックスにしたまま、内部エネルギーとエントロピーを計算して、熱力学の知識を援用すればbが本質的に逆温度だということは分かる。普通のミクロカノニカル=>カノニカルの出し方見ても、相加性は表に出てこず、なんか計算すると出てきた感じしかしないけど、この議論だと、あの形は相加性からの必然的な帰結というのが、はっきりする


相加性が強力に効いてる例としては、「断熱過程について単調な示量変数はエントロピーの一次関数に限る」という"Lieb-Yngvasonの定理"も最近印象的だった(この事実がLieb-Yngvason以前に認識されてたのかは知らないけど、こういう記述は他で見たことがない)。相加性と示量性こそ平衡熱統計力学の本質と言ってもいいんじゃないかと思う。ついでに、今までTsallis の非加法的統計力学って何かうさんくさいものだと思ってたのだけど、何でそういうことを考えたいかは理解できる気がしてきた