no-interaction theorem

というものがあることを、最近知った。


物理に於ける不変性と対称性
http://d.hatena.ne.jp/m-a-o/20140130#p2
の微妙に続き


古典力学的な質点系に於いて、可能な相互作用の形は、ガリレイ不変性によって、ある程度制限される。例えば、方向に依存する二体相互作用は、回転不変性を破るので、基本法則のレベルで、そんなことは起きないと思われている。そのような問題意識から、Lorentz不変な質点系で、どのような相互作用が可能か考えてみるのは自然である。通常の逆二乗則に従う重力相互作用やCoulomb相互作用は、力が瞬時に伝わることになるので、Lorentz不変性を破る。そして、実はLorentz不変性(+粒子の座標がLorentz変換の下で"適切に"変換するという条件+ある種の非退化条件)を破ることなく、質点系に相互作用を入れることはできないという(直感的には、当たり前の気もする)結論が、(Leutwylerの)no-interaction theoremらしい。


Relativistic Quantum Mechanics of Interacting Particles
http://www.wiese.itp.unibe.ch/theses/klauser_master.pdf
は、誰かの修士論文らしいのだけど、よくまとまっている


no-interaction theoremは、3+1次元で成立する定理であるけども、1+1次元では、相互作用のある"相対論的な理論"が存在するということが、上の修士論文に書いてある(Chapter3)。また、1+1次元の相対論的と言われる模型と言えば、Ruijsenaars-Schneider模型がある。これは確かに、Poincare代数の生成元を作れるという意味では、Lorentz不変な理論と言えるかもしれないけど、相対論的な模型とは言えないという主張が
The Ruijsenaars-Schneider Model
http://arxiv.org/abs/hep-th/9702182
に書いてある。no-interaction theoremの条件で言うと、Poincare代数の生成元は作れているけども、座標が適切に変換するべき(例えば、運動量演算子は空間並進を引き起こすべしというような)という条件が破れている。数学的にみると、運動量演算子が並進を引き起こさなくてもいいんじゃね?という気がしなくもないが(実際、Ruijsenaars-Schneider模型は、可積分系であって、面白い性質を持つ)


そういうわけで、Lorentz不変な理論に、相互作用を入れるためには、本質的に、無限自由度(一般的には、場の理論)を必要とすると言っていいと思う。そう考えると、人類が、まずガリレイ不変な有限自由度の力学(古典力学)を発見し、Lorentz不変な場の理論(電磁気学)を発見してから、Lorentz不変な有限自由度の力学(特殊相対論)を発見したというのも、自然な流れであったのかもしれない。まぁしかし、正しい(と、現在思われている)理論は、Lorentz不変な場の理論なわけで、一方、ある範囲では、ガリレイ不変な有限自由度系が、よい近似を与えるというのは、不思議なことである(数値計算でも、実質的に、有限自由度へ落としているわけであるわけだけど、そういうのとは、全然違う種類の落とし方であるのは間違いない)。


#水素原子にDirac方程式を適用する時、1/rポテンシャルとか入れてる気がするけど、あれはLorentz不変性を破っている。それで、結構いい感じの答えがでるのも不思議なことではあるが、QEDで摂動展開しても、摂動展開を有限項で打ち切ると、Lorentz不変性は破れるわけであるから、そういうもんなんだという気もする。シュレディンガー方程式で、水素原子を扱う場合は、電子と原子核の二体問題を考えて、変数分離している(教科書によっては、このことは明示的に書かれてないかもしれない)。変数分離する前は、系全体でガリレイ不変性が成立している。Dirac方程式やKlein-Gordon方程式の場合は、Lorentz不変性を保つには、電磁場を明示的に持ちこむしかない


#類似の定理として、量子場の理論は、自由場の理論しかないというHaagの定理がある。no-interaction theoremでは、Lorentz不変性以外の条件は、弱いものであるけど、Haagの定理では、もうちょっと強い条件が付いているように見える(違う系に対する定理なので、条件が強い・弱いとかいっても、感覚的なものではあるが)。Haagの定理は、見方によっては、無限自由度まで行っても、Lorentz不変な理論に相互作用を入れることができないという主張のようにも読めるけど、多分一般的な理解としては、相互作用描像が数学的には正当化できないという主張だと受け取られているように思う。no-interation theoremは、古典論と量子論で同様に成立する定理であるけども、Haagの定理の適用範囲は、量子論のみで、古典場のレベルでは、相互作用のある理論は、"ちゃんと存在する"ように見える(例えば、古典的なDirac場/電子場と、古典的な電磁場が相互作用する理論とか)ので、量子化が存在しないということは、考えにくいように思う。


#座標が、Lorentz変換で適切に変換すべきという要請の、場の量子論版は
Wightman Axioms
http://ncatlab.org/nlab/show/Wightman+axioms#wightman_axioms
のAixom5かもしれない。
物理に於ける不変性と対称性
http://d.hatena.ne.jp/m-a-o/20140130#p2
も参照。こうした条件が、本当に正しいかは、よく考えるべきかもしれない