IgnatowskiによるLorentz変換の導出のvariation

Lorentz変換の代数的導出
https://vertexoperator.github.io/2018/07/05/ignatowski.html

というのを書いた。

正しいLorentz変換の式を書いたのは、Larmorが最初っぽい(1897年)けど、電磁場と電荷・電流の変換まで考えたのはLorentzらしい。特殊相対論では、光速度不変の原理と特殊相対性原理から、Lorentz変換を説明する。1910年頃、Ignatowskiという人が、光速度不変の原理を仮定せずに、Lorentz変換の導出を与えた。と言っても、光速度が決まるわけないので、任意パラメータが一個残る(上のリンク先の定数γ)。このパラメータγは、大きく分けると、正か0か負になり、それぞれ、対応する変換群は、SO(3,1),SE(3),SO(4)となる。場の理論としては、それぞれ、相対論的場の理論ガリレイ不変な場の理論(※)、Euclidean field theoryが対応する

(※)日本語的には、非相対論的場の理論だと、対称性がISO(n,1)じゃないやつは全部当てはまりそうな気がする

Ignatowskiの論文は、不完全だったとかいう話もあるけど、問題はすぐにfixされて、それ以後、この方法の色んなvariationが出ている。この方法に対するPauliの評価は"from the group theoretical assumption it is only possible to derive the general form of the transformation formulae, but not their physical content"という感じで、特に高くはない。個人的には、光速度不変の原理は、原理と呼ぶには、dirtyすぎる気もするけど、Einsteinの特殊相対論への貢献が、なくなってしまう


で、たまたま導出を見たところ、見通しが悪いと感じたので、自分で考えなおしたのが、上の話。見通しはよくなったと思うけど、あんまり初等的でもなくなった。上の説明だと、一次元formal group law(FGL)の可換性は、本質的に効いていて、回避する術はなさそうに思える(適当な係数環の下での、一次元formal group lawの可換性の証明は、難しいわけではないけど、何も知らずに自分で思いつくのは割と難易度高めな気がする)。Ignatowskiの時代には、formal group lawはなかったし、他の証明見ても、formal group lawは出てこないので、通常は、何か無意識に仮定している物理的条件が存在してるんじゃないかと思ったけど、よく分からなかった。まぁ、どうでもいいけど


Fizeauが1851年に実験によって確認した速度合成則は、今から見ると
f(u,v) = u + v - \frac{u^2 v}{c^2}
だったわけで、可換でないだけでなく、結合的でもない。可換にする最も安直な方法は
f(u,v) = u + v - \frac{u^2 v + v^2 u}{c^2}
とすることで、実験結果とは矛盾しないけど、結合則は満たさない。とか考えていくと、発見的に、正しい速度合成則にたどり着けても、よさそうなもんだけど、そうはならなかった。1851年には、FGLの概念とかなかったので仕方ない

フィゾーの実験
https://en.wikipedia.org/wiki/Fizeau_experiment#Fresnel_drag_coefficient


ところで、Lorentz変換というと、SO(3,1)と思うけど、フェルミオン場との相互作用の記述にスピン接続を使うことを考えると、Spin(3,1)が"本体"じゃないかという気もする。普段、Lie環でばっか考えるので、気にしたことなかったけど。