先日、成り行きから、リー環が何かも分かっていない人に、一時間程度で即興で共形場理論の説明をすることになった。ちゃんと準備しても多分そんなことは無理なので、色々無理だったんだけど、sl(2)の表現論とVirasoro代数の表現論の極めて粗い説明をして終わった。で、その時、何故リー環を考えるのか、sl(2)を考えるのか、動機が分からないということを言われた。

リー環はともかく、sl(2)の方は、一番自然なリー環だといつのまにか身に染み付いていたので、そこまで思い至らなかったけど、冷静に考えると、sl(2)が何故重要であるかを説明するのは難しい気がする。何の予備知識もない人にとって、非自明で自然なリー環の例というと、so(3)ということになるんだろうか。こっちは、外積であり、回転という幾何学的イメージが付いてくるので比較的分かりやすい。

よく考えてみると、こういうことは結構至る所にある気がする。Virasoro代数にしたところで、c=0の場合はよいとしても、なんで中心拡大を考えると、面白くなるのか、わたしには説明できない。昔数学の本を読んでいたとき、いつも思ったのは、定義や例の動機付けが弱いということだった。電磁気学の教科書を見たら、いきなりMaxwell方程式がでてくることはあまりなくて(そういう風に書いている本もあるけど)、いかにしてMaxwell方程式にたどり着くか、ということが延々と書いてあるし、量子力学の本を読めば、(苦しいながらも)どうしてSchrodinger方程式にたどり着くかということが頑張って書いてある。

翻って、数学を見ると、動機の説明はあまりなくて、いきなり定義が与えられることが多い(ように見える)。それでも、幾何学の場合は、まだ直感が働きやすいのだけど、代数になってくると、結構厳しい。先日の「共形場理論講義」の時に知ったのは、みんな(と言っても、二名ですが)群やリー環の定義は知ってるけど、そこで止まってるんだなぁということで、結局定義自体は字面を追えば理解できるけど、動機付けが弱いので、何が面白くて、何がすごいのか、全然ピンとこないからそれ以上先に進む気にもならないという感じなんだろうな、と思った。