雑感

以前から、数学での圏論の使い方とlogicやCSでの圏論の使われ方は、なにかが違うという気がしていて、なんかそんな話。感覚的な話かつかなり独断に基づいてるので、突っ込みどころは沢山あるだろうけど

わたし自身の偏見では、数学で重要な圏は、ある代数系加群や、代数多様体上の連接層の圏のような、なんらかの意味での「表現」の圏で、圏論の教科書に出てくるような、集合の圏とか群の圏とか、位相空間の圏のようなものは、そういうものは勿論考えられるけど、重要でない気がしている。derived categoryは表現の圏になっていない重要な例だけど、それ以外には、代数的トポロジーとかで色々使われてそうなのは個人的に代数的トポロジーは嫌いだからどうでもよく、トポスなんかは、Grothendieckは新しい空間概念だと考えてたらしいけど、重要とは思わない。

それで、表現の圏というのは、実際には非常に具体的で、個別の例はとても個性的で面白い。例えば、数学でモノイダル圏と言ったら、まあ大体表現の圏は普通モノイダル圏になっているのだけど、例として有限群の表現やリー環の表現なんかがあって、それぞれに豊かな世界があって、個別の例を考えることは極めて大切だし面白い問題になってる。

それに対して、CSでは、あるクラスの圏を考えたとき、個別の例というのが見えなくて、完全に没個性化しているように感じる。例えば、HaskellのArrowを対称モノイダル圏でモデル化するという場合だとか、あるいは、Hopf代数の加群の圏は線形論理のモデルになるみたいな話をどっかで見た気がするけど、そういう時に、特に具体的な圏やHopf代数を想定しているわけではないだろうし、そういうものを考えることに、そもそも意味がないっぽい。

先日参加させてもらった圏論勉強会の時に思っていたのは、braided monoidal categoryとかtwistだとか、そういった概念を量子群の例を知らずに、何故そんなものを考えるのか迷わないのかという点で、一応braidの圏とかtangleの圏とかは考えられるし、それ以外の場合についても、自然数と1:1に対応するObjectを持って、適当なdiagramの適当なisotopy類を射とするような適当な圏を考えれば例を作ることはできるだろうけども(braided monoidal category with twistの例としては、「枠付き組紐」の圏みたいなのを考えるとか)、多分そういう例だけを見て、これは重要で必然性のある概念だと確信するのは困難だと思う。結局、CSに於ける圏って例に乏しいなっていう。

群というのは公理が3つしかないからある意味至る所に存在する構造だと言える。でも実際には、何の制限もない「一般の群」をいうものを考えることにあまり意味はない。有限群論とリー群論は、全く繋がりがないわけではないけど、それぞれの理論は、群という概念ができる前から存在していて、両者の理論を統一的に扱う枠組みがあるわけでもない。という意味で、群という概念には、あまり意味がなくて、有限群とリー群で同じ用語を使ってるけど、極論すれば用語の節約程度の役割しか果たさない。そして、離散群という多少例外的な存在もあるけど、基本的にこれらの例を外れて、数学的に面白い群というものは多分ないし、数学的に面白くない群を考えても、およそ意味がないだろうと思う。

で、positiveな結論とかは特にないのだけど、圏というのも、群と同じくらいsimpleな構造なので、その気になれば至る所に圏を見つけることはできる。こういう構造が至る所にあるのは、人間の頭が知れてるからか、宇宙が意外と単純だからか、どちらかは知らないけど、CSやlogicで何かが圏論を使うと綺麗にモデル化できるよ!っていうとき、実はそれは単なる「偶然」で、リストはモノイドですって言う程度の意味しかなかったりするんじゃないのかな、という疑惑を最近は持っている。


#あまり本題と関係ないけど、数学屋にとっての圏論と計算機屋にとっての圏論を考えたので、物理屋にとっての圏論も考えてみると、そもそも物理屋ってあまり圏論を使ってるのを見かけないなっていう。物理の人たちは、役に立つものなら何でも貪欲に取り入れて、物理の概念が適用できそうなとこには颯爽と出向いていって蹂躙するという超アグレッシブな人だと思うので(偏見)、圏論が使われていないというのは、要するに圏論は全く役にry。

まあ、つい最近知ったAbramskyたちの仕事はちょっと違うけど、ミラー対称性は圏論的に定式化されるべきだと数学側では思われているらしかったり(わたしはよく知らないので、正しい道かは不明だけど、元々の話にあった超共形代数が表面的にはどこにもいないのが気に入らない)、Yang-Baxter方程式はhexagon axiomそのものなので圏論的に見ると自然だというのがよく分かるし、あと個人的に最も印象的なのは、Verlinde Formulaは、いくつかの数学的定式化の下での証明があるけど、modular tensor categoryの性質として自然に出てきて、これが一番よい定式化だと思う。なので、物理で(といっても、素粒子と物性の一部くらいかもしれないけど)圏論を使う動機は割とあるんじゃないかと思うけど、物理の人たちがどう考えてるかは謎。