加齢に従って、ミトコンドリアの機能低下・構造変化が起きるというのは、真核生物全般で広く確認できる事象で、それ自体が、加齢の原因であると考える人も、少なからずいる。若いうちは、機能低下を起こしたミトコンドリア(具体的には、膜電位の低下を目印にして処分されていくらしい)は、マイトファジーと呼ばれる、ミトコンドリア選択的なオートファジーによって分解して処理されるが、加齢に伴って、オートファジー機能自体が低下するという話もある。


マイトファジーは、複数のステップが関わる複雑な過程ではあるけども、最終的にリソソームで分解が起きるので、
リソソームの機能低下->
マイトファジー機能低下/ミトコンドリア・ターンオーバー低下->
機能低下したミトコンドリアの蓄積->
ROS産生の増加、好気呼吸能力の低下->
炎症性サイトカインの分泌、解糖系の亢進、細胞周期停止etc...
という流れがあるという可能性を考えられる(なんか、たらいまわしのようだけど)


An early age increase in vacuolar pH limits mitochondrial function and lifespan in yeast.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23172144

という論文では、出芽酵母(S.Cerevisiae)を用いてリソソームに似た働きを持つ液胞内部の酸性度の低下(=pHの上昇、リソソーム内部は、pH4~5程度で極めて酸性的な環境であることが分かってる)が、ミトコンドリアの機能低下・構造変化とリンクしていることを示している(機能低下は、直接見れないので、膜電位の低下を観察している)。具体的には、ATPの加水分解エネルギーを利用して液胞内のpHを調節するプロトンポンプであるV-ATPaseの過剰発現によって、老化に伴うミトコンドリア機能の低下を抑制できるらしい

更に、液胞のpH上昇の何が問題なのかを調査した結果として、液胞内のたんぱく質分解能は関係なくて、中性アミノ酸の取り込み能が低下することが関与していることを示している。が、中性アミノ酸の輸送が何で、そんな重要なのかは、よく分からないらしい。また、栄養飢餓は、液胞内部の酸性度を増加させるとかも書いてある(栄養飢餓はオートファジーを誘導することは知られている。合目的的には、外部からの栄養素が枯渇すれば、自身を分解して栄養素をリサイクルする必要が生じるので自然ではある)。これは、酵母の話なので、もっと高等な真核生物やヒトのリソソームでどうかって話に関しては、何も言えないのだけど、著者たちは、リソソームのpHがミトコンドリアの機能、老化を調整しているかもしれないとか書いている


V-ATPaseの活性自体、ATP濃度に依存するのだろうと思われるので、単純に考えると、細胞内ATP濃度減少->V-ATPase活性低下->リソソーム内pH上昇という流れはありそうな気はする。リソソームのpH上昇が損傷ミトコンドリアの増加に繋がるとすると、リソソーム内pH上昇->損傷ミトコンドリア蓄積->呼吸機能低下->ATP減少という循環が起きそうな気もする。勿論、ATP濃度が低下すれば、AMPKの活性化などを通じて、オートファジーの誘導やATP増加が起きるということも知られているので、そんな単純ではないだろうけど、ATP濃度の低下が(リソソーム内部のpH上昇を介して)ミトコンドリア機能低下の原因になりうることを示唆しているようにも思える(また、ATPは解糖系をアロステリックに阻害するので、それ自体が代謝のバランスを変化させる要因ともなりえる)。最近加齢に伴う細胞内ATP濃度の低下が報告されていて、それは素朴に考えるとミトコンドリア機能の低下や代謝調節の変化の結果という気もするけども、逆に、たまたま偶発的な要因でATP濃度が低下して、不運にも一定期間回復しなかったせいで、リソソーム機能やミトコンドリア機能を含む細胞機能全般が回復不能なほどダメージを受けてしまうということもあるのかもしれない


Mitophagy and mitoptosis in disease processes
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20700707
とか見ると、ミトコンドリア処分の機構には、mitoposisというアポトーシスミトコンドリア版みたいなのもあるっぽい?