量子群によるAlexander多項式の定義

Lie superalgebraの面白い応用(?)例


Free fermions and the Alexander-Conway polynomial
http://projecteuclid.org/DPubS?service=UI&version=1.0&verb=Display&handle=euclid.cmp/1104248302


Jones多項式は今や沢山の定義があるけれども、quantum sl(2)の自然表現のR-matrixを用いて定義できる。大体その手の解説読むと、Kauffman多項式とかも同じように定義できると書いてあるけど、Alexander多項式ができるとは書いてなくて、結構長い間不思議だった。Alexander多項式の場合は、quantum sl(1|1)を使わないといけない。論文は1990年代頭に出てるので、結構昔から知られてることらしい


[Jones多項式]
v_0,v_1で張られる二次元空間へのquantum sl(2)の表現を考えると、R-matrixは以下で定義される(テンソル積$v_i \otimes v_j$の代わりにブラケット記法|i,j>とかを使う)
R|0,0> = q^{1/2} |0,0>
R|0,1> = q^{-1/2} |1,0>
R|1,0> = q^{-1/2} |0,1> + (q^{1/2} - q^{-3/2}) |1,0>
R|1,1> = q^{1/2} |1,1>


#quantum sl(2)の定義やR-matrixの意味は、以下のスライド20~23枚目あたりとかを参照
https://docs.google.com/file/d/0B19G9yllQLdTNDliZjg2NGYtNmI2MS00YTVkLTlkZjgtODQ2NjRkMjliODQ1/edit?hl=ja&pli=1


上のR-matrixを使って、組みひも群の表現を作ることが出来る。組みひもbと表現を同一視して、
$(q+q^{-1})^{-1} q^{-3 w(b)/2} tr(q^H b)$
は、q=-t^{1/2}という変数変換によってJones多項式となる(当然bの表現空間に応じて、q^Hの方も同じ表現空間に作用させる)。wは組みひもの交点数。$tr(q^H b)$は、Markov traceという名前が付いてる。ごちゃごちゃと色々くっついてるのは、n-組みひもとm-組みひもがMarkov同値なら、同じ多項式を与えるようにするため


計算すれば即分かるとおり、このR-matrixは以下の"skein関係式"を満たす。
$q^{1/2}R - q^{-1/2} R^{-1} = (q-q^{-1})Id$
明らかに、これからJones多項式のskein関係式が出る


case1:自明な2-strandのclosure(自明な結び目2つからなる絡み目)の場合
単純に、tr(q^H)=q^2+1+1+q^{-2}=(q+q^{-1})^2なので、Jones多項式は、$-(t^{1/2} + t^{-1/2})$となる


case2:2-strand $b_1$のclosure(自明な結び目)の場合
q^{-3/2} tr(q^H R)=q+q^{-1}より、Jones多項式は定数1になる


case3:2-strand $b_1^2$のclosure(Hopf link)の場合
q^{-3} tr(q^H R^2)=q^{-3}(q^3 + 2 q^{-1} + (q^{1/2}-q^{-3/2})^2 + q^{-1})=(q^{-5}+q^{-1})(q+q^{-1})
より、q^{-5}+q^{-1}が求めるJones多項式


case4:2-strand $b_1^3$のclosure(trefoil)の場合
q^{-9/2} tr(q^H R^3) = (q+q^{-1})(q^{-2}+q^{-6}-q^{-8})となって、q^{-2}+q^{-6}-q^{-8}がJones多項式


case5:3-strand $b_1$のclosure(自明な結び目2つからなる絡み目:case1と同じ)の場合
対角成分は<0,0,0| q^H R_1 |0,0,0> = q^{7/2}<0,0,1| q^H R_1 |0,0,1> = q^{3/2}<0,1,0| q^H R_1 |0,1,0> = 0<0,1,1| q^H R_1 |0,1,1> = 0<1,0,0| q^H R_1 |1,0,0> = q(q^{1/2} - q^{-3/2})<1,0,1| q^H R_1 |1,0,1> = q^{-1}(q^{1/2} - q^{-3/2})<1,1,0| q^H R_1 |1,1,0> = q^{-1/2}<1,1,1| q^H R_1 |1,1,1> = q^{-5/2}
で、
tr(q^H R_1) = q^{3/2} (q+q^{-1})^2より、Jones多項式は、q+q^{-1}で、ちゃんとcase1と一致する


[Alexander多項式]
http://d.hatena.ne.jp/m-a-o/20120623#p1
と論文では記号が違う。
・論文でfermionと言ってηとかη^{+}で書いてるのは、eとfに相当する(hは1と同じなので、ef+fe=hという関係式は、丁度fermionの生成消滅演算子が満たす関係式と読める)
・論文で$(-1)^F$と書いてるものが、sに相当する


考えるべき表現は、同じく二次元表現。基底を、v_0,v_1として、R-matrixは
R|0,0> = q |0,0>
R|0,1> = (q-q^{-1})|0,1> + |1,0>
R|1,0> = |0,1>
R|1,1> = -q^{-1} |1,1>
で定義される。R-matrixのskein関係式は以下の通り
$R-R^{-1} = (q-q^{-1})Id$


具体的な定義とか例は、論文に詳しく説明されているので略。大体303~305ページあたりを見ればいい。余積は、s=(-1)^Fでひねっておけば、テンソル積をgradedにせず普通に扱える(論文298ページ真ん中あたりも参照)


Jones多項式は、SU(2) Chern-Simons理論から出るということだけど、U(1|1) Chern-Simons理論とか考えれば、Alexander多項式は出るのだろうかと思って、ぐぐったら以下のそれっぽい論文を見つけた(中身は見てない)
Reidemeister torsion, the Alexander polynomial and $U(1,1)$ Chern-Simons theory
http://arxiv.org/abs/hep-th/9209073