Qunatum HadronDynamicsに関する覚書

Quantum Hadrondynamics in Two Dimensions
http://arxiv.org/abs/hep-th/9401115
Rajeevは上記の論文で、2次元QCDのlarge N極限を、無限次元Grassmann多様体上の古典力学系として記述できることを示した。古典力学で記述できるのは、Yaffeが1982年の論文で述べたとおり、ゲージ理論のlarge N極限は、全ての量子相関が消える一種の古典極限になるから。



large N極限を考えるというアイデアは、t'Hooftによるらしく、その極限で理論が種数展開で書けることを示した(?)。多分アイデアとしては、large N SU(N)ゲージ理論とSU(N)ゲージ理論(ゲージ群は、SO(N)でもSp(N)でもいいのだと思うけど)は、物理量が1/Nのオーダーしか変わらないので、large Nゲージ理論を記述して(それは何らかのstring理論に違いないと思われている)、有限のNに対するゲージ理論を(1/Nをパラメータとして)摂動論的に記述しよう(N=3に対して、1/Nは結構"小さい"し、あと、Nを整数に限る必要もないので、形式的にはゲージ理論より広範な理論になる?)とか、そういうのがあるのだと思う
A planar diagram theory for strong interactions
http://igitur-archive.library.uu.nl/phys/2005-0622-152933/UUindex.html

Two-dimensional model for mesons
http://cds.cern.ch/record/414628/files/?ln=ja


Rajeevは、t'Hooftがlarge N 2次元QCDに対して導いた中間子のBethe-Salpeter方程式をQuantum HadronDynamicsの枠組みから導くことができると言っている(これは、Quantum HadronDynamicsで中間子がどのように記述されるかを教えてくれる)
Two dimensional baryons in the large N limit
http://arxiv.org/abs/hep-th/9209027



(1)グラスマン多様体が出てくる理由
2次元QCDは、gluonの自由度を消去して、quarkの自由度のみが残るようにできるので、適当な多体fermion系と等価になるからというのが理由。gluonの自由度がないことが、HadronDynamicsという名前の由来でもある(と思う)。これ自体は、2次元の特殊性に由来する簡略化


fermion系は適当な古典系の量子化としては普通出てこないけど、古典極限というのを粒子間の相関がなくなって各粒子が独立に運動しているような状態として捉えると、多体Fermion系では、Slater行列式で書ける状態が古典的な状態と呼ぶにふさわしい。で、粒子数をNとして、一粒子の状態空間をVとすれば、Slater行列式で書けるN粒子状態は、占有されている状態で張られるVの部分空間と対応するので、そのような全体の集合はGr(N,V)というGrassmann多様体で記述できる(そして自然なsymplectic構造があるので、相空間として扱える)。Grassmann多様体は、ある多様体の余接空間と見なすことはできないので、普通の古典力学系とは違うけど、量子力学の状態と、相空間の点との対応は見やすい


Hartree-Fock法では、この相空間上でエネルギー最小となる点を探す。時間発展を考えれば、time-dependent Hartree-Fockというものになる。基本的に多体fermion系の古典近似/Hartree-Fock近似では、元のFermionがどこの時空にいたかに関係なく、相空間はGrassmann多様体になる(通常、ハミルトニアンは、fermionが住んでいた時空の構造を反映しているとは思うけど)。このことは、多くの理論が、無限次元Grassmann多様体と関連する理由になっているのだと思う(無限次元になるのは無限自由度だからで、量子化学のような有限自由度が大事な話では、出てこない)



(2)無限次元Grassmann多様体について
Rajeevの論文で出てくる無限次元Grassmann多様体は、いわゆる佐藤の普遍Grassmann多様体(UGM)と思っていいけど、論文で、Gr_1と書いてある"1"の説明。無限次元Grassmann多様体が最初に導入されたSato-Sato論文では、無限次元Grassmann多様体は、有限次元Grassmann多様体の極限を取ればいいよね、と些かナイーブなことが書いてあるらしい(まぁ、代数的には、Schur多項式とPlucker関係式という、無限個の生成元と関係式で定義されると思えば曖昧さはないという趣旨なんじゃないかと思うけど)。その後、Segal-Wilsonによって、洗練された定義が導入されたけども、その定義には微妙なvariationが存在する。


可分な複素Hilbert空間の直和空間(これは、fermionの一粒子の状態空間)H=H_{+} \oplus H_{-}(真空状態はH_{-}は全部占有されていて、H_{+}は全く占有されてない状態に対応すると解釈する)に対して、universal Grassmann多様体Gr(H)は、Hの部分空間Wで、WのHへのinclusionと射影の合成\pi_{\pm}:W \to H_{\pm}について、以下の条件を満たすもの全体として定義される
(UGM1)\pi_{-}はFredholm作用素
(UGM2)\pi_{+}は、コンパクト作用素(あるいは、Hilbert-Schmidt作用素。あるいはトレースクラス作用素)


(UGM2)の条件で、トレースクラス作用素を仮定するのがRajeevのGr_1。Hilbert-Schmidt作用素を仮定すれば、Gr_2と書くのだと思う。この番号は、Schattenノルムのクラスに対応している(のだと思う)。わたしは関数解析力が乏しいので、(UGM2)の定義の強さに応じて、どういう差が現れるのか、知らない(Pressley, SegalによるLoop Groupsという本を読めばわかるのかもしれない)けど、多くの場合は、細かすぎるdetailにすぎないのだと思う。(UGM1)のFredholm作用素のvirtual indexは、Grassmann多様体のvirtual rankと等しく、Rajeevによれば、これはバリオン数と見なせる



(3)W_∞代数について
論文に現れる双局所場M(x,y)は、量子化した時、KPの頂点作用素と同じものなのだと思う(多分)。この2つは、同じ代数を生成する。なので、ここで出てくるW_∞代数とは、W_{1+∞}代数と思うべきなのだと思う。


Transformation Groups for Soliton Equations - Euclidean Lie Algebras and Reduction of the KP Hierarchy
http://www.ems-ph.org/journals/show_abstract.php?issn=0034-5318&vol=18&iss=3&rank=12
の(1.1)のZ(p,q)とか(あるいは『ソリトンの数理』(岩波)定理6.1付近)。Z(p,q)の交換関係については既に上の論文に書いてあるけども、W_{1+∞}代数との関係は、例えば、以下の論文などを参照
On additional symmetries of the KP hierarchy and Sato's Backlund transformation
http://arxiv.org/abs/hep-th/9312015


KPの頂点作用素とFubini-Veneziano頂点作用素の関係(詳細を気にしないなら、Z(p,p)はボソン場になるので関係性は見えているけども)は
双対共鳴模型のK.-P.系の解による実現
http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/101374
などにあって、2次元QHDから双対共鳴模型が導出できそうな気もする



(4)その他の資料
2次元QCDの昔と今
http://ci.nii.ac.jp/naid/110002066430

W-infinity 代数の諸相
http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/83201

非線型可積分系と準古典近似
http://www.math.h.kyoto-u.ac.jp/~takasaki/res/noda92b.pdf

Intersection Theory, Integrable Hierarchies and Topological Field Theory
http://arxiv.org/abs/hep-th/9201003



古典力学をやるには、UGM上のPoisson構造をちゃんと書く必要があるけど、fermion operatorを使って量子論をやる方が簡単そうではある。Hamiltonianもexplicitに書かれてるので、原理的には色々計算できるはず。無限自由度で、"二電子積分項"(電子ではないけど)も複雑な形で、多分可積分でもないだろうから簡単ではないだろうけども