ユニタリN=2超共形場理論の話

・有理共形場理論は、モジュラーテンソル圏(+ある種のmodule category)に全ての情報がエンコードされてる(はずである)こと(Moore-Seiberg,FRS)
・N=2超共形場理論では、有理性とユニタリ性が同値(らしい)こと
・ユニタリN=2超共形場理論のtopological twistで、位相的共形場理論が得られること(Eguchi-Yang)
・位相的共形場理論は、あるCalabi-Yau圏に全ての情報がエンコードされてる(らしい)こと(Costello et al.)
ということを合わせると、ある種のモジュラーテンソル圏から、Calabi-Yau圏を得る方法があるはずということになる。正確には、Calabi-Yau圏は、D-braneの圏らしいので、モジュラーテンソル圏と、その適当なmodule category(これがFRS formalismによるD-braneの記述を与える)をセットで考えるべきかもしれない。位相的共形場理論の対称性が、位相的N=2代数で記述されるのだとすると、逆に位相的共形場理論をuntwistして、N=2超共形場理論を得ることもできるはず。つまり、Calabi-Yau圏から、モジュラーテンソル圏を得る方法もあるかもしれない。今のところ、この2種類の圏には、殆ど何の関係もありそうにない。


#"operator formalism"による共形場理論の(物理屋の)標準的な記述から、モジュラーテンソル圏を使った記述(FRS formalism)を得る方法は、(operator formalismの数学化である頂点作用素代数の方法などで)大体分かっている。一方、Calabi-Yau圏は、位相的共形場理論の物理的な記述と、どう関係するのか、具体例のレベルでさえ(私には)全く分からない(数学的な説明どころか、物理的な説明も曖昧なように思う)


自然数dに対して、(代数的閉体kに対して、k-linear Hom-finite 三角圏が)d-Calabi-Yau圏というのは、シフト関手[d]がSerre functorと自然同値となることを言う(三角圏の代わりに、Calabi-Yau A_∞圏を考えることもある。まぁ、大差ないと思う)。このような最小の自然数dをCalabi-Yau次元と呼ぶ。一方、位相的共形場の理論では、(Lerche-Vafa-Warnerの考察と推測によって)次元dは中心電荷cと、d=c/3の関係にある。最近は、dの代わりに$\hat{c}$と書いてあるのをよく見るけど、位相的共形場理論の"次元"と、分数的Calabi-Yau圏の次元は、少なくとも、非線形シグマ模型のtopological twistで記述される位相的共形場理論の場合には、一致すると期待される(両者はtarget spaceの次元に等しいはず)。ところで、位相的共形場理論では、特別な場合を除けば、dは整数にはならない。その最も有名な例は、位相的極小模型(N=2極小模型のB-twistで得られ、そのchiral ringは、Klein特異点のJacobi環/Milnor環になる)の場合で、例えば、A_{k+1}型の位相的極小模型では、d=k/(k+2)になる(一般には、位相的極小模型は、ADE型のDynkin図形と対応し、そのCoxeter数をhとすると、d=(h-2)/hとなる)。これに対応するためではないと思うけど、最近は、分数的Calabi-Yau次元とか、分数的Calabi-Yau圏というのも考えられている。つまり、Serre関手Sが、S^n=[m]を満たす時、分数的Calabi-Yau次元m/nを持つという。まぁ、一般に分数的Calabi-Yau次元が、対応する位相的共形場理論の中心電荷の1/3になるという証明はないけども、位相的極小模型の場合は、一致が確認できる(これが一般に正しいなら、分数的Calabi-Yau圏から中心電荷が分かることになる。一方、モジュラーテンソル圏から中心電荷を知る方法は不明)


#分数的Calabi-Yau圏とか分数的Calabi-Yau次元の概念は、論文読んでも、はっきり書いてなかったりする。例えば、arXiv:math/0503240の8.2にコッソリ書かれていて(8.3 Example(2)に出てくるDynkin quiverの表現の圏のderived categoryは位相的極小模型を記述すると思われているCalabi-Yau圏)、同時期に、Soibelmanは分数的Calabi-Yau次元を持つA_∞圏をfractional noncommutative Calabi-Yau manifoldと呼んでいる(よい用語とは思わないけど)。はっきり書いてあるものとしては、arXiv:1008.1245。またarXiv:0908.3510の冒頭には、『fractionally CY propertyは、表現論・特異点論・可換/非可換代数幾何で、ますます重要になってきている』と書いてある(整数次元のCalabi-Yau圏についても、色々調べられているようである。特に、3次元Calabi-Yau圏が重要らしい)


#Serre functorの概念は、Serre dualityの圏論的抽象化として出てきたものだけど、(k-linear Ext-finiteな)アーベル圏の導来圏に於いては、Auslander-Reiten trianglesの存在とSerre functorの存在が同値である(arXiv:math/9911242)ことが示されている。ついでに、semiorthogonal decompositionというものの特別なものが、Lefschetz分解に対応していると言われている(詳細は知らない)。


位相的極小模型に対応する分数的Calabi-Yau圏の実現は、Matrix Factorizationによるものと、Dynkin quiverによる方法がある。Matrix Factorizationは、極大Cohen-Macaulay加群を調べるために出てきた純粋に数学的な概念だけど、物理的には、位相的Landau-Ginzburg模型と呼ばれる(位相的極小模型を含む)クラスの位相的共形場理論のD-braneを記述する手法の一つらしい。これを最初に言い出したのは、Orlovっぽいけど、それを広めた物理屋の論文は、
D-branes in Topological Minimal Models: the Landau-Ginzburg Approach
http://arxiv.org/abs/hep-th/0306001
じゃないかと思う。論文を読んでも、何故Matrix Factorizationが位相的極小模型のD-braneを記述していることになるのか、さっぱりわからない


#Landau-Ginzburg模型という名前は、自由エネルギーを秩序変数の場で展開して物質相を記述するGinzburg-Landau理論に由来するんだと思うけど、今の場合、物理的意味は、大して重要でないと思う。位相的Landau-Ginzburg模型は、位相的共形場理論の中では、特殊なクラスの模型であるけども、Seiberg-Witten理論と関係したりするらしい(一般に、共形場理論のmassive/integrableな変形を考える必要があるっぽい)


もう一方の位相的極小模型のDynkin quiverによる記述は、物理の方で、BPS quiverと最近呼ばれたりするものと関係するのだと思う。quiverを使ってD-braneを記述するというアイデアは、Matrix Factorizationによる記述よりも古いっぽい(1996年に"D-branes, Quivers, and ALE Instantons"という論文が出ている@arXiv:hep-th/9603167)し、位相的Landau-Ginzburg模型以外の位相的共形場理論でも有効っぽいけど、今のところ、わたしには、quiverとD-braneの関係は皆目理解できない(まぁ、非線形シグマ模型の場合には、D-braneの圏=連接層の導来圏=非可換クレパント解消の加群の導来圏みたいな対応があるっぽいけど、わたしに理解できるD-braneの定義はFRS formalismに基づくものなので、そこからquiverが出てくるという形になってほしい)。D-braneは分からないけど、例えば$A_{k+1}$型のDynkin quiverの場合、path algebraは、上三角行列のなす代数と同型になって、その表現の圏のderived categoryが、$A_{k+1}$型Klein特異点のMatrix Factorization categoryと圏同値になるみたいなことは、数学的な命題として真偽を問うことができる。これを証明したのは、以下の論文だと思う
Matrix Factorizations and Representations of Quivers I
http://arxiv.org/abs/math/0506347

Matrix Factorizations and Representations of Quivers II: type ADE case
http://arxiv.org/abs/math/0511155


Klein特異点の次にやってくるものとして、一つの方向性は、単純楕円特異点やArnoldが発見した14個の例外型特異点が考えられる(Klein特異点が、球面のSchwartz三角形と関係があるように、これらの特異点は、Euclid平面や双曲平面のSchwartz三角形と関係があるのだと思う)。これらに付随して、N=2超共形場理論(位相的Landau-Ginzburg模型として実現できる)があるのだけど、位相的極小模型の時と同じようなストーリーが成立すると期待したい


以下の論文は全然読んでないのだけど、数学者によって、Matrix factorization categoryの方は調べられているっぽい
Triangulated categories of matrix factorizations for regular systems of weights with $ε=-1$
http://arxiv.org/abs/0708.0210


quiverの方が、どうなってるかは、物理屋の答えをカンニングすればよいのだと思う(多分。これも、全然読んでないのだけど
On Arnold's 14 `exceptional' N=2 superconformal gauge theories
http://arxiv.org/abs/1107.5747