量子力学の確率解釈は別にいいんだけど、中心極限定理とかは、仮定しちゃっていいわけ?というのが、ふと気になった。


理論的には、完全に同一の系をN個並べて、同じ物理量をそれぞれの系で同時に測定するという状況を、数学的に厳密に定式化できる。これは、同一の分布に従う確率変数がN個あるっていうのと同じ状況であるけども、ちゃんと数学的に書ける以上、大数の法則中心極限定理のような定理まで勝手に仮定するのは、よく考えるとおかしい。こうした状況においては、大数の法則中心極限定理に相当するものは、単に、ある演算子固有値の分布に関する言明でしかなく、確率解釈を受け入れるかどうかとは独立した話


とりあえず、二準位系で考えてみる。状態空間Vの基底をe_0,e_1として、X(e_n)=nであるような物理量X(スピンが上向きなら0、下向きなら1とか思えばいい)を考える。系の状態は\phi = \frac{1}{\sqrt{2}}(e_0+e_1)であるとする。標準的な解釈に従って、物理量Xは、確率1/2で、0か1となり、その期待値は<φ|X|φ>=1/2で与えられる。高次のモーメントも全部計算できるので、モーメント母関数を得ることも出来る


同じ系を二つ並べた時、状態空間はV \otimes Vで、合成状態は \phi_2 = \phi \otimes \phi、そして、それぞれの系で独立に物理量Xを測定した合計量は、合成系に作用する演算子で書けて1 \otimes X + X \otimes 1となる。2つの測定の平均が欲しいなら、演算子を2で割ればいい。\mu(2,X)=(1 \otimes X + X \otimes 1)/2とする。これは、普通に合成系を考える時の、標準的な手続き。μ(2,X)の期待値は当然<φ_2|μ(2,X)|φ_2> = 1/2となる。実際の観測量は1,1/2,0の3種類で、出現確率は、1/4,1/2,1/4となる。同様に、μ(N,X)を考えると、固有値は、k/N(k=0,...,N)の(N+1)種類で、観測確率は、C(N,k)/2^Nとなる(C(N,k)は組み合わせの数)。まあ、要するに、確率分布関数は二項分布で書ける。


何か当たり前という感じではあるけど、標準的な確率解釈から従う結果が、ちゃんと線形代数の計算で出るというのが、意味あることだと思う。有限準位系で最初から対角化されてるので自明に見えるけど、例えば、調和振動子の位置演算子みたいに"対角化できない"ケースでも、こうしたことは計算できる


ということを考えた人はいるだろうと思って、探したところ、以下の論文を見つけた。ちゃんと読んでないけど、多分同じようなことを、真面目に言っているっぽい
An algebraic version of the central limit theorem
http://link.springer.com/article/10.1007%2FBF00536048?LI=true#page-1