Peter Woitという弦理論の批判で知られた人が、数年前に

Use the Moment Map, not Noether's Theorem
http://www.math.columbia.edu/~woit/wordpress/?p=7146

という記事を書いていた(私には要点がイマイチ分からなかったが)


ネーターの定理は、「保存量と対称性が対応する」という標語で知られる有名な定理で、普通、Lagrangianを使って定式化される。moment mapは、ネーターの定理のHamilton形式版というかsymplectic版といえる。数学では、Lagrangianそのものが使われない傾向にあるので、ネーターの定理を見かけることは、少ない。一方、物理学者が、moment mapを使っているのを見たことは、記憶にある限りではない。

物理学者は(数学者とは逆に)Lagrange形式を好んで使うこと、また、彼らが考えたい系の多くは可積分でなく、エネルギー、運動量、角運動量以外の"自明でない"保存量は、"some kind of charge"以外出てこないので、ネーターの定理で得られる保存量を重視する必要性が低い(そのような自明でない保存量は、Runge-Lenz vectorやKowalevski topで出てくるものがあるけど、教科書に載ってないことも多い)ことなどが理由として考えられる


moment mapを使うべき理由として、私が思いつくのは、以下のようなもの
(1)余接空間以外の相空間(≒一般のsymplectic多様体)でも適用可能(このような力学系は、特に数学では、しばしば扱われ、Lagrangianが不明である)
(2)個別の保存量や"対称性"ではなく、保存量や対称性の集合に存在する構造(つまり、Lie群やLie環)について記述する
(3)運動量写像は、"力学には依存しない"ことが定義から分かる
(4)運動量写像量子化も、数学的に厳密に定義できる


#moment mapでは、時間並進対称性に対応する物理量がエネルギーだという事実が出ないように見えるけど、これは、moment mapの問題ではなく、相空間の取り方の問題だと思う。空間並進対称性に付随する物理量が運動量であることと、時間並進対称性に付随する物理量がエネルギーであることは、明らかに同じ構造を持っているので、通常の扱いでは、相空間が時間とエネルギーに対応する座標を持ってないことがトラブルの原因と思われる。

#時間・エネルギー座標を持つ相空間として、extended phase spaceというものが使われることがある。extended phase spaceは、ガリレイ群のmoment mapを定義しようと思えば必要だし、相対論を考えても不自然ではない。時間/エネルギー変数を含む正準変換を行いたいケースもある(以下の文献などで使われている)
Stackel系の全ての保存量を保つ離散化 (可積分系研究の新展開 : 連続・離散・超離散)
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/42747


(3)について。ネーターの定理は、(少なくとも、見かけ上は)Lagrangianに依存するが、Lagrangianは、力学系ごとに異なる。一方、運動量写像は、symplectic多様体と、多様体への(symplectic形式を保つ)群作用のみで決まり、Hamiltonianには依存していない。従って、Hamiltonianを取り替えても、相空間と群作用が同じであれば、自明に同じ運動量写像を得る。


群作用が、Hamiltonianを保つなら、HamiltonianとPoisson可換な保存量を得ることができるけど、運動量写像の"型"は
\mu:M \to \mathfrak{g}^{*}
で(Mはsymplectic多様体でetc.)、保存量はM上の関数でないと困る。"型"だけから類推してもpullbackを考えればよいというのは想像に難くなく、これはcomeoment mapと呼ばれることがある。comoment mapの"型"は
\mu^{*} : S(\mathfrak{g}) \to C^{\infty}(M)
となる。S(\mathfrak{g})は、Lie環の対称代数であるけど、Poisson代数になり、また、S(\mathfrak{g}) \subset C^{\infty}(\mathfrak{g}^{*})に注意する。comoment mapは、群作用と可換で、Poisson括弧を保つ環準同型。環準同型なので、一次の元\mathfrak{g} \subset S(\mathfrak{g})の行き先が決まれば、残りも全部決まる。例えば、symplectic形式を保つ回転対称性SO(3)があれば、M上の関数L1,L2,L3で、{L1,L2}=L3,{L2,L3}=L1,{L3,L1}=L2を満たすものが得られ、これは、so(3)の基底のcomoment mapによる像である


#moment mapの定義によっては、保存量に定数を足す不定性が残ることがある。角運動量の例だと、L1,L2,L3をL1+c1,L2+c2,L3+c3に置き換えても(c1,c2,c3は異なる定数)、それぞれから定まる時間発展は変化しない。このような場合、moment mapのpullbackはPoisson括弧を保たない。moment mapの定義で、comoment mapがPoisson準同型になることを要請する場合もある。このへんは、上の(2)と関係する話


(4)について。いわゆるquantum moment mapも、comoment mapと対比すると分かりやすい。quantum moment mapの概念や名前を誰が最初に明文化したのかは分からない(概念自体は、誰でも思いつくようなものなので、多くの人が同時期に知っていたに違いない)。特に難しい概念ではないけど、日本語の教科書で見かけたことはないので、一応文献をあげておく
Lectures on Calogero-Moser systems
https://arxiv.org/abs/math/0606233
の25ページDefinition4.1を参照

#私は、昔誰かが"量子化運動量写像"と訳していたのを見て、その呼称を使っていたけど、今検索したら、このサイトしか出なかった。そもそも、普通に訳すと、"量子運動量写像"の気がする(これは、一件あった)。

quantum moment mapの"型"は、comoment mapの型に於いて、対称代数を普遍展開環に変え、関数環を非可換環に変えたものとなる(quantum comoment mapと呼んだほうが適切でないかとも思うが、非可換の場合の空間概念がないので、量子の場合、comomentの方しか存在しない)
\kappa : U(\mathfrak{g}) \to A
これは環準同型で、群作用と可換になるという条件が付く。この場合も、一次の元(つまり、Lie環の元)の行き先だけ決まれば、残りは全部決まる。上のEtingofによるLecture Noteでは、大域的な変換ではなく、無限小変換を考えている。この定義だと、ネーターの定理は、ほぼ自明である。

#P,XをAの元として、ad(P)(x) = [P,x]と置くと、ad(P)は線形かつ非可換ライプニッツ則を満たす(ad(P)(QR) = Q(ad(P)(R)) + (ad(P)(Q))Rとなる)。 この条件を満たす元XをDer(A)としているが、X=ad(P)となるPがいつでも存在するとは限らないけど、存在すれば、正に保存量となる(逆に、保存量Pを与えれば、ad(P)によって、Der(A)の元が決まるので、非可換環Aへの無限小変換も自動的に定まることになる。従って、普遍展開環からの環準同型は、いつでも何らかの無限小変換に付随するquantum moment mapとなっている)。一方、群作用を微分して直接得られるのはDer(A)の元である


ここでの量子化の意味は、"filtered quantization"と呼ばれるものを考えるのがいい。一般に、フィルター環A(filtered quntizationではincreasing filterを考える)に対して、associated graded algebra(日本語訳は次数化環?)gr(A)を定義することができて、gr(A)は可換とは限らないけど、可換代数である時には、自然なPoisson構造が入る。このような時、Aはgr(A)のfiltered quantizationと呼ばれる(gr(A)のPoisson構造まで込みで一致する必要がある)。filtered quantizationは、多分、最近使われるようになった用語で、あまり浸透していないっぽい(検索すると、arXiv:1212.0914やarXiv:1704.05144で見つかる)。


名前が付いてなかったものの、かなり昔から、界隈の数学者は、この意味で(暗黙のうちに?漠然と?)量子化を捉えていたっぽい(上記EtingofのLecture Noteでも、filtered quantizationという用語は使われていないが、正にこの意味での量子化になっていることが分かる)。この用語に従えば、Lie環の普遍展開環は対称代数のfiltered quantizationであり、Weyl代数は、T^{*}\mathbf{C}^n上の多項式関数環のfiltered quantizationである

filtered quantizationで得たフィルター環から完備なRees代数を構成すれば、変形量子化になる。1990年以降に見つかってきた新しい例も多く、例えば「有限W代数はSlodowy sliceの量子化である」という時も、filtered quantizationの意味での量子化と理解できる(arXiv:math/0105225)。また別の例としては、(ある種の?)3-Calabi-Yau代数などがあるらしい(よく知らない)
Noncommutative del Pezzo surfaces and Calabi-Yau algebras
https://arxiv.org/abs/0709.3593

Calabi-Yau algebras viewed as deformations of Poisson algebras
https://arxiv.org/abs/1107.4472

associated graded algebraは、可換にならない場合でも、例えばClifford代数からは外積代数が得られる。外積代数には、Poisson superalgebraの構造が入り、『Clifford代数は外積代数の量子化である』と言われるのも、filtered quantizationの一種として理解できる。


#量子化すると、非自明な中心拡大が生じることがある(ガリレイ代数の質量項や、Virasoro代数のcentral chargeなど)。これらは、filtered quantizationとは別の枠組みで理解されるべきようにも見えるけど、よく分からない


(3)に戻ると、運動量写像にHamiltonianは必要ないので、例えば、相空間がsymplectic等質空間であれば、変換がHamiltonianを不変に保つか否かに限らず、運動量写像を考えることができる。そして、量子論では、このような運動量写像量子化によって、spectrum generating algebraが作られ、波動関数に作用する。このような観察から得るべき教訓は、Hamiltonianを不変にするような"力学的対称性"だけでなく、相空間の幾何構造を不変にする幾何学的対称性に付随する物理量にも目を向けたほうがいいということだと思う


私は、普通のmoment mapで考えると混乱するので、comoment mapしか使わない(computer algebraを利用しやすいように、物事を代数的に考えておきたいというのもある)けど、comoment mapは、保存量が直接得られる点とquantum moment mapとの自明な類似性の二点に於いて、moment mapより優れていると思う。なので、「ネーターの定理より、moment mapより、comoment mapを使おう」といえる(数学では、moment mapの像を見たいこともあるけど)

雑survey: 可積分性の必要条件と十分条件

Lax方程式は、可積分系で頻出する道具の一つで、現在知られている多くの(古典)可積分系で、等価なLax方程式が得られている。
Lax equation
https://ncatlab.org/nlab/show/Lax+equation
には"Lax equation is used in integrable systems; namely some systems are equivalent to the Lax equation."などと書いてある。

#非線形可積分系の差分化とその現状
http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/0889-07.pdf
は、1994年のものではあるけど、可積分性の性質として、Lax pairがあげられている(著者に、広田良吾が入っているので、"権威付け"として)。


原理的には、(有限自由度の古典可積分系では)作用・角変数から、Lax pairを作ることができる
L = \left( \begin{matrix} I & 2I \theta \omega \\ 0 & -I \end{matrix} \right)
M = \begin{pmatrix} 0 & \omega \\ 0 & 0 \end{pmatrix}
に対して(Iとθが時間依存する変数で、ωは定数)
\dot{L} = [L,M]

\dot{I} = 0 , \dot{\theta} = \omega
は同値。一般には、作用・角変数に対して、上のLとMを対角的に並べたものを、Lax pairとすればいい。勿論、作用・角変数が具体的に分かっているなら、もう系は解けているといってよく、Lax方程式は必要ないので、こんな話は、実用上は何の意味もない(つまり、このLax方程式は役に立たないものである)けど、大雑把には「Liouville可積分系はLax方程式で書ける」と言ってもよさそうである。

この議論は
Hamiltonian structures and Lax equations
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/037026939091198K
にあるものと同じ("any hamiltonian system, which is integrable in the sense of Liouville, admits a Lax representation, at least locally at generic points in phase space")。


積分でなくても、Lax方程式で書ける系は、無数に存在する。というのも、非退化な不変内積を持つLie環\mathfrak{g}の双対空間(標準的なPoisson構造がある)上で定義されるハミルトン力学系は、常にLax形式で書くことができるけど、当然、その殆どは、可積分でないだろうと思われる。Lax方程式の偉いところは、機械的に、沢山の第一積分が得られる点にあるけど、この場合、得られる保存量は、Casimir関数であり、例えば、Lie環がgl(n)であれば、次元は$n^2$に対して、独立なCasimir関数はn個しかないので、一般に全く足りない。というわけで、これも役に立たないLax方程式である(※)

※)しかし、この見方は、役に立つLax方程式への第一歩でもある。例えば、非周期有限戸田格子を"標準的な"Lax形式で書いた時、Liouville可積分であるための第一積分は、Casimir関数で与えられる(実際、tr(L^n/n)の形で書け、n=2の時が通常のHamiltonian)。Casimir関数は、classical r-matrixを通じて定義されるPoisson括弧に関しても包合的であるが、他の関数とPoisson可換とは限らなくなる。そして、Casimir関数を行列Mにmapする関数も、classical r-matrixで書ける。このような構成は、AKS(Adler-Kostant-Symes)の定理という名前で知られる。非周期有限戸田格子の場合は、これで可積分になるために十分な数の第一積分を得られる。classical r-matrixとLax方程式の一般論について、以下に書いた

classical r-matrixとLax方程式
https://vertexoperator.github.io/2017/11/04/rmatrix.html



物理的に意味のある例として、2D/3D Euler(流体)方程式はLax方程式で書け、かつ非可積分である。

Lax pair formulation for the Euler equation
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0375960190908093

A Lax pair for the 2D Euler equation,
https://arxiv.org/abs/math/0101214

Lax Pairs and Darboux Transformations for Euler Equations
https://arxiv.org/abs/math/0101214


Euler方程式は無限自由度であるけど、Zeitlinによって、2D Euler方程式を有限自由度に"truncate"した系が知られていて(よく使われる"正式名称"みたいなのはないようなので検索しづらい)、これは、やはりLax方程式で書けるが、十分な数の第一積分が出てこない例となっている(多分、非可積分だと思うけど、証明があるかは知らない)
Finite-mode analogs of 2D ideal hydrodynamics: Coadjoint orbits and local canonical structure
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/016727899190152Y


Euler-Arnold方程式(有限次元or無限次元"Lie群"上の左不変or右不変計量に関する測地流)でLax形式で書けるものは沢山あるはず(Lie群の余接空間のsymplectic reductionは余随伴軌道なので)で、Euler流体の方程式は、その例となっている。



[補足1]『非線形可積分系の差分化とその現状』には、他に可積分性の条件として"N-ソリトン解を持つこと"が挙げられている。これについては、(そもそも、ソリトン解の数学的な定義は何かということを脇に置いても)微妙なとこではある。少なくとも、1−ソリトン解を持つ非可積分系は存在する(e.g. double sine-Gordon方程式)。「任意のNについて、N-ソリトン解が存在するなら、可積分か」という問いについては、私は答えを知らない

Exact, multiple soliton solutions of the double sine Gordon equation
http://rspa.royalsocietypublishing.org/content/359/1699/479
では、高次元double sine-Gordon方程式を考えて、時空の次元qに対して、(2q-1)-ソリトン解まで存在すると書いてある


まぁ、"少なくとも1−ソリトン解を持つ"という意味では、"non-integrable soliton equations"という言葉を使えるので、「ソリトン方程式は可積分である」という言明は、慎重に使う必要があると思う。以下のようなレビューもあるし

Dynamics of classical solitons (in non-integrable systems)
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0370157378900741



[補足2]『非線形可積分系の差分化とその現状』に挙げられていないが、多くの古典可積分系はbiHamilton系であることが知られている("2つ"あるのは、HamiltonianではなくPoisson括弧なので、biPoissonと呼ぶほうが適切な気がするけど、biHamiltonianという名前が広く使われている)。biHamilton系に於いても、Lax方程式と同様、十分多くの第一積分を得るための処方箋がある(recursion operatorによって、"低次"のHamiltonianから高次のHamiltonianを作れる。hamiltonianとして、recursion operatorのべき乗のトレースがしばしば選ばれる)。けど、biHamilton系は、いつでも完全可積分かという問いは、結論としては、正しくない

MathOverflowの以下の質問に対する回答が参考になる
Connection between bi-Hamiltonian systems and complete integrability
https://mathoverflow.net/questions/14740/connection-between-bi-hamiltonian-systems-and-complete-integrability


リンクが切れている論文があり、タイトルも不明だったので、探したものを貼っておく。

Lax方程式とbihamiltonian系の関係に関する、F. MagriとY. Kosmann-Schwarzbachの論文というのは、多分これ(Journal of Mathematical Physics 37, 6173 (1996))
Lax–Nijenhuis operators for integrable systems
http://aip.scitation.org/doi/abs/10.1063/1.531771

Magri, Morosi, Gelfand and Dorfmanをsummarizeしている、R.G.Smirnovの論文というのはこれ
Magri–Morosi–Gelfand–Dorfman's bi-Hamiltonian constructions in the action-angle variables
http://aip.scitation.org/doi/abs/10.1063/1.532221


あと、回答にあげられていないけど、以下の論文も参考になると思う
Canonical Forms for BiHamiltonian Systems
https://link.springer.com/chapter/10.1007/978-1-4612-0315-5_12


また、全ての完全可積分系がbiHamiltonianではないという話も、以下にある
Completely integrable bi-Hamiltonian systems
https://link.springer.com/article/10.1007/BF02219188
論文で挙げられている"可積分だけどbiHamiltonian構造を持たない"例は、MIC-Kepler問題として知られる系(普通のKepler系はbiHamiltonianだけど、摂動を入れると、biHamiltonianでなくなる)。


[補足3]上記のMathOverflowの記事を見ると、完全可積分性に必要な運動の積分を構成する3つのアプローチとして、Lax形式、biHamiltonian構造、そして、変数分離(separation of variables/SoV)が挙げられている。変数分離は、解析力学の教科書に書いてある古い方法で、19世紀に知られていた多くの可積分系は、この方法で解かれている(と思う)けど、職人芸的なものである。最近(20世紀後半)になって、変数分離の理解にも進展があった(私は、あまり理解してないけど)。


Hamilton力学系が、スペクトルパラメータ付きのLax方程式と等価な場合、Lax行列の固有ベクトルである"properly normalized" Baker-Akhiezer関数の極と対応する固有値が、分離座標を与えるというのが、Sklyaninのmagic recipe(とSklyanin自身が書いている)というもの。Sklyanin自身は、むしろ量子可積分系への応用を念頭に置いていたらしい
Separation of Variables. New Trends.
https://arxiv.org/abs/solv-int/9504001

Sklyaninは以下のように書いているので、"recipe"として完成していると言えるのかは不明;
Amazingly, it turns out to be true for a fairly large class of integrable models, though the fundamental reasons responsible for such effectiveness of the magic recipe:“Take the poles of the properly normalized Baker-Akhiezer function and the corresponding eigenvalues of the Lax operator and you obtain a SoV”, are still unclear. The key words in the above recipe are “the properly normalized”. The choice of the proper normalization ~α(u) of Ω(u) can be quite nontrivial (see below the discussion of the XYZ magnet) and for some integrable models the problem remains unsolved

この場合、スペクトル曲線は代数曲線なので、系を調べるのに代数幾何が役に立つことになる。古典可積分系の解が、しばしば楕円関数や超楕円関数で書ける理由の説明にもなる



変数分離にはbiHamilton系からのアプローチもある(bihamiltonian theory of SoV)。鍵になるのは、よいbiHamilton系では、Nijenhuisテンソル(※)が存在して、その固有値が、Darboux–Nijenhuis座標というものの半分を与えるという感じらしい。こっちの方は、微分幾何学的で、理論的な理解はより進んでいる模様。一方で、量子可積分系への"移植"は不明

※)recursion operatorと呼ばれることもある。このようなoperatorの存在は、KdV階層に於いて、Lenardという人によって認識されたのが最初らしい

Separation of variables for bi-Hamiltonian systems
https://arxiv.org/abs/nlin/0204029

About the separability of completely integrable quasi-bi-Hamiltonian systems with compact levels
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0926224508000296

Generalized Lenard chains and Separation of Variables
https://arxiv.org/abs/1205.6937


現状、与えられたHamilton力学系を"解く"のに役立つLax形式やbiHamiltonian構造を見つけるのは、今の所、職人芸に頼るしかないと思う(し、存在するかどうかも明らかではない)けど、Lax形式やbiHamiltonian構造が分かれば、Liouville可積分性が要求する第一積分を全て発見することは、しばしば可能となる。けど、十分な数の独立な第一積分があれば、Liouville-Arnoldの定理によって求積可能であると言っても、これは原理的なものでしかなくて、実際に解く上では役に立たない(例えば、第一積分の等位集合の位相構造を調べるのは、一般には相当難しい)。変数分離は、実際に系を解くという目的に、より近く、実際的な方法であると言える(解を既知の関数で具体的に書けることと、物理的に意味のある情報を得ることは、あまり関係ないことが多いけど)

結局、Lax方程式やbihamiltonian構造を見つけるところが職人芸なので、可積分系の求積は職人芸のままだと思うけど、Lax方程式で書ける可積分系とか、biHamiltonian構造を持った可積分系を、ある程度系統的に作る方法が発見されており(AKSの定理だとか、Frobenius多様体からbi-Hamiltonian hierarchyを作れるとか。そうして作られる系には面白い例がある)、そのへんが重要な進展と言えるのでないかと思う


[補足4]
Canonicity of Baecklund transformation: r-matrix approach. I
https://arxiv.org/abs/solv-int/9903016

Canonicity of Baecklund transformation: r-matrix approach. II
https://arxiv.org/abs/solv-int/9903017

線形代数と解析力学

有限次元ベクトル空間Vに対して、対称代数S(V \oplus V{*})と対称代数S(V \otimes V^{*})には、それぞれ自然なPoisson構造が入り、前者は解析力学で基本的なPoisson代数として現れる。後者は、行列上で定義された多項式関数の集合と同一視できるので、線形代数に於ける基本的な考察の対象とみなされる(例えば、行列式は、行列上定義された多項式関数である)。また、前者の量子化はWeyl代数、後者の量子化はgl(V)の普遍展開環となり、それぞれ解析学と(Lie環の)表現論で基本的な対象といえる(gl(n)は半単純でないので、Lie環の表現論では、やや人気がないけど)。こうして、基本的な4つの代数を得る


S(gl(n))は、gl(n)の双対空間上の多項式関数と同一視できる。S(gl(n))は、n^2個の変数x_{ij}で生成される複素係数の多項式環に、以下で定義されるPoisson括弧を定義したものと同型
\{ x_{ij} , x_{kl} \} = \delta_{jk} x_{il} - \delta_{il} x_{kj}
当然、この定義は、行列単位の交換関係
 [E_{ij} , E_{kl}] = \delta_{jk} E_{il} - \delta_{il} E_{kj}
から来ている。


簡単な計算によって
 \{x_{ij} , \sum_{k=1}^n x_{kk} \} = \sum_{k=1}^n( \delta_{jk} x_{ik} - \delta_{ki} x_{kj} ) = x_{ij} - x_{ij} = 0
が分かる。明らかに
tr(\sum_{i,j} x_{ij} E_{ij}) = \sum_{k=1}^n x_{kk}
である。同様にして、多項式
det(\sum_{i,j} x_{ij} E_{ij})
を考えることができるが、これは、
 \{x_{ij} , \sum_{a,b} x_{ab} E_{ab}\} = 0
を満たす。


Poisson代数Aに対して、
C(A) = { x ∈ A | ∀y ∈ A,{x , y} = 0 }
で定義される集合C(A)を、Poisson centerと呼ぶ。Poisson centerは、明らかにPoisson可換なPoisson代数をなす(Poisson可換とは、任意の元同士のPoisson括弧が0になること)。なので、Poisson centerの生成元を全部決定するという問題を考えることができる。

まぁ、detとtrが含まれることから想像される通り、直接計算で、
tr( (\sum x_{ab} E_{ab})^p )
は、S(gl(n))のPoisson centerに含まれることが分かる。これで生成されることを言うのは、
ad(f)(g) = {f,g}
で定義されるPoisson随伴作用と、GL(n)の随伴作用を微分したものを比較すると、Poisson centerとGL(n)不変式の全体が一致することが分かるので、上の形の元は、S(gl(n))のPoisson centerを生成することが分かる


Chevalleyの制限定理は、簡約Lie環に対して
S(\mathfrak{g})^G \simeq S(\mathfrak{h})^W
で、Harish-Chandra同型というのは、簡約Lie環に対して
Z(U(\mathfrak{g})) \simeq S(\mathfrak{h})^W
となる。従って明らかに
S(\mathfrak{g})^G \simeq Z(U(\mathfrak{g}))
が言える(この同型もHarish-Chandra同型と呼ばれていることがある。Harish-Chandraが最初にどれを主張したのかは知らない)。この同型は、Poisson centerと量子化した代数の中心とが環同型と解釈できる。


Harish-Chandra同型やChevalleyの制限定理の場合と違って、
S(\mathfrak{g})^G \simeq Z(U(\mathfrak{g}))
は、任意の有限次元Lie環に対して、正しいことが証明されていて、Duflo isomorphismという名前が付いている。



S(gl(n))のPoisson centerは不変式論的に見ても同じものを得ることができるので、S(gl(n))のPoisson構造を考える必要は必ずしもない。Liouville可積分性を思い出せば、Poisson可換な代数は重要であるので、中心に限らず、もっと大きなPoisson可換な部分Poisson代数を考えるのは自然に思える。S(gl(n))の場合、Poisson可換な極大部分Poisson代数として、Mishchenko-Fomenko subalgebraというものと、Gelfand-Tsetlin subalgebraのclassical versionとが知られている

#Tsetlinさんはロシア人っぽいけど、Cetlin,Tsetlin,Zetlin,Zeitlinなど、名前の表記ゆれが激しい。ここでは、Tsetlinを採用


Gelfand-Tsetlin subalgebraは、歴史的に、quantum version(つまり、U(gl(n))の可換部分環)が先に作られたっぽい。誰が最初に考えたのか分からないけど、arXiv:math/0503140には、Vershik & Kerov(1985)とStratila & Voiculescu(1975)が独立に考えたと書いてある(私は全く知らないけど、Voiculescuは自由確率論の開拓者で、Kerov-Vershikは漸近表現論を開拓し、自由確率論の応用先となっているそうな。多分、n→∞の時が興味の中心なのでないかと思うけど)。ロシア語論文と古い本なので、確認してみる気にはならなかった

Gelfand-Tsetlin代数の定義は簡単で、gl(n)⊃gl(n-1)⊃...⊃gl(1)なので、Z(U(gl(n)),Z(U(gl(n-1)),...で生成されるU(gl(n))の部分環というのが、定義。これが可換環になることは、すぐ分かる。so(n)⊃so(n-1)⊃...⊃so(1)でも同じことが出来るし、量子普遍展開環やYangianでも、同様の定義ができる。classical versionは、中心の代わりに、S(gl(n))のPoisson centerを取っていけばいい。

"Gelfand-Tsetlin"という名前は、Gelfand-Tsetlin基底というものに由来する(1950年代の仕事らしい)。gl(n)有限次元既約表現空間に、U(gl(n))のGelfand-Tsetlin algebraの作用が自然に定まり、同時固有関数を考えると、それがGelfand-Tsetlin基底(今の文脈で言うと、Gelfand-Tsetlin algebraがsimple spectrumを持つというのが、Gelfand-Tsetlinの示したこと?)。物理の人とかは、so(3)のスピンl表現の基底として、|l,m>と書くものを取るけど、あれも(so(3)⊃so(2)なので)Gelfand-Tsetlin基底。


#シンプレクティック代数sp(n)の場合、sp(n-1)に制限していっても、Gelfand-Tsetlin基底は得られない。これは、sp(n)の有限次元既約表現を制限した時に、multiplicity-freeに分解しないため。Wikipedia見たら、何かYangian使って、Molevがsp(n)の場合にGelfand-Tsetlin基底を拡張したと書いてある
https://en.wikipedia.org/wiki/Restricted_representation#Gelfand.E2.80.93Tsetlin_basis


#Gelfand-Tsetlin基底は、無限次元表現でも得られることはある(例えば、so(4,2)の極小表現や、so(3,1)の既約ユニタリ表現、3次元Euclid代数の既約ユニタリ表現など)。一般には、単一のHamiltonianが与えられた時、それと交換する保存量の全体は可換になるとは限らない(例えば、角運動量などは互いに可換でない)けど、Liouville可積分性では、その中の可換な部分代数のみが問題となる。このような代数で極大なものが複数ある場合もあるかと思う。第一積分の包合性以外に、独立性が問題になるけど、今は代数的に考えているので、理論的には、超越次数やKrull次元などで、第一積分の数が測られる


Gelfand-Tsetlin代数のclassical versionについて最初に考えたのは、Vinbergのよう。
On certain commutative subalgebras of a universal enveloping algebra
http://iopscience.iop.org/article/10.1070/IM1991v036n01ABEH001925
Mishchenko-Fomenko algebraも、ここで初めて定義されたっぽい。


Poisson可換なPoisson部分代数を考える動機として、Liouville可積分性をあげたので、可積分性の話。そのまま、Gelfand-Tsetlin可積分系と呼ばれる古典可積分系がある。元々は、GuilleminとSternbergが、GT代数の実Lie環版(つまり、u(n) ⊃ u(n-1) ⊃ ....で考える)に付随する可積分系を考えて、その後、2004年頃と割と最近になって、Kostant-Wallachによって、gl(n)版が考えられた(ので、後者は、Kostant-Wallach theoryとか呼ばれていることもある)
Gelfand-Zeitlin theory from the perspective of classical mechanics. I
https://arxiv.org/abs/math/0408342

Gelfand-Zeitlin theory from the perspective of classical mechanics II
https://arxiv.org/abs/math/0501387

まぁ、通常の可積分系とは、大分趣は違う。so(n)版のGelfand-Tsetlin系も作れそうだけど、知らないなと思ったら
The Gelfand-Zeitlin integrable system and its action on generic elements of gl(n) and so(n)
https://arxiv.org/abs/0811.0835
あたりでやられていた。

あと、
Linear algebra meets Lie algebra: the Kostant-Wallach theory
https://arxiv.org/abs/0809.1204
はsurveyじゃないと書いてあるけど、"線形代数のspecialist"向けに書かれているようで分かりやすい。GT代数を積分して得られる群作用は、Ritz値を保つ(疎行列の数値計算界隈の技法であるKrylov部分空間法で出てくる用語)ということで、線形代数数値計算にも応用があるかもしれない(実際に役立つ何かがあるのかは不明。可積分系に興味がないという人への導入にはなると思う)


Mishchenko-Fomenko algebraの方。この代数の定義は、上のVinbergの論文でされたようだけど、その起源は、1970年代のManakov topという古典可積分系の研究に遡る。Manakov topは、Euler topの一般化で、Euler topが、S(so(3))で定義されるので、S(so(n))への一般化を考えようというもの。Poisson多様体のLiouville可積分性は謎いので、余随伴軌道に制限すると、Poisson centerは定数関数となって、第一積分として役に立たない。Hamiltonian自身が余随伴軌道上で定数となる場合は無視することにする

#Manakov topは、SO(n)上の測地流として定式化できる(多分、定式化自体はArnoldによるものじゃないかと思うので、Manakov topという名前が適切かどうかは不明)。計量は慣性モーメントによって決まると見ることができる。相空間は、SO(n)の余接空間で、自然なSO(n)作用に関する運動量写像を関数環の方で見ると、S(so(n))->Fun(T^{*}SO(n))という型になる。関数のクラスFunはPoisson代数の構造が入れば何でもいい。この写像は、Poisson括弧を保つ環準同型になっている。Hamiltonianとかは、S(so(n))の像に入っていて、S(so(n))を"相空間"と思うこともできるし、よく知られる通り、T^{*}SO(n)のsymplectic reductionとしても、余随伴軌道が出る。


最も簡単なso(3)の場合、genericな余随伴軌道の次元は2なので、あと一つ保存量があれば、Liouville可積分になる。これはHamiltonian自身があるのでOK。一般のso(n)の場合、Hamiltonian以外の保存量が必要となる。Manakovは、スペクトルパラメータ付きのLax方程式で、Manakov topを表し、必要な保存量を得たらしい。Mishchenko-Fomenkoは、その構成を、argument shift/shift of argument methodと現在、呼ばれている方法で捉え直した。これは、S(g)の元を、Lie環の双対空間上の(多項式)関数と思った時、Poisson centerに属する関数fに対して、固定された元Zと形式パラメータtを与えて、f(X + t Z)をtの冪で展開した係数のなす関数という定義(つまり、Z方向にテイラー展開した微係数)。Zごとに異なる代数が得られるけど、Poisson可換となる

EULER EQUATIONS ON FINITE-DIMENSIONAL LIE GROUPS
http://iopscience.iop.org/article/10.1070/IM1978v012n02ABEH001859/meta


Mishchenko-Fomenko代数の量子化の問題を提起したのは、上のVinbergの論文(ここでの量子化は、filtered qunatizationの意味。Vinbergは、そのような言葉は使ってないけど。量子化した方は、shift of argument subalgebraとかいう方が、通りが良いかもしれない)。これに対して、"generic"な部分を解決したのが、以下の論文と思う。Yangianあるいはtwsited YangianのBethe subalgebraというものからやってくるらしい
Bethe Subalgebras in Twisted Yangians
https://arxiv.org/abs/q-alg/9507003

上の論文で除外されていた特殊ケースについても、ある種の極限を取ることによって、極大な可換部分代数を対応付けることができるらしい。Gelfand-Tsetlin代数も、このようにしてshift of argument subalgebraの退化したケースとして出る。一般に、簡約Lie環に対して、shift of argument subalgebraのモジュライ空間を考えることができ、gl(n)の場合は、種数0でn+2個の点付きリーマン面のモジュライ空間(Deligne-Mumfordの安定曲線のモジュライ空間)に一致する。

Degeneration of Bethe subalgebras in the Yangian of gln
https://arxiv.org/abs/1703.04147

などを参照。gl(n)以外の場合も同様に、shift of argument subalgebraのモジュライ空間を考えることができるらしいのだけど、知る限り、文献はない


gl(n)のGelfand-Tsetlin代数は、gl(n)の有限次元既約表現上でsimple spectrumを持ち、同時固有関数はGelfand-Tsetlin基底となった。Gelfand-Tsetlin代数は、shift of argument代数の退化したケースなので、shifto of argument代数が同様にgl(n)の有限次元既約表現上でsimple spectrumを持つかどうかという問題を考えられる(答えは知らない)。yesであれば、Gelfand-Tsetlin基底の変形が得られる。


#Manakov topは、Reyman&Semenov-Tian-Shanskyでも系統的に得ることはできる。この方法では、Lax形式が分かる(Poisson可換な代数を与えるのは、より単純ではあるけども、それだけでは、対応するLax pairを得ることはできない)。詳述してる文献がないけど、
A new integrable case of the motion of the 4-dimensional rigid body
https://projecteuclid.org/euclid.cmp/1104115435
など



線形代数は、ベクトル空間と線形写像の理論ではあるけど、線形性に全てを押し付けて理解できない側面がある。例えば、行列式は線形な関数ではないし、相似変換の軌道は、複雑な幾何構造を持つ。対角化などは、相似変換による軌道の代表元を取る操作と理解されるので、あんまり線形な過程ではない。線形代数の線形性を超えた情報の多くは、S(gl(n))に含まれていると考えられる。S(gl(n))と関係の深い力学系は、非周期有限戸田格子やGelfand-Tsetlin系、gl(n)-Manakov topなどがある。これらは、物理的な重要性は、今の所、あまりないように思う(戸田格子とかは、一応物理的な動機があって調べられたもののようだし、他にもなんかあるのかもしれないけど)。そういう系であっても、全然別の観点からの有用性があるかもしれない。

#まあ、一応、以下のような話を念頭に置いている
The QR algorithm and scattering for the finite nonperiodic Toda lattice
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0167278982900690


というわけで、線形代数解析力学は、それぞれ、2つの基本的なPoisson代数を調べる分野だという見方もできるようになる